アベマリアが聴こえる

宮沢誠人

第1話


 

 もうすぐ夜が明ける。

  日中は物情騒然を具現化したようなこの場所も、今は無音が支配している。考えを纏めるには理想的な状況だ。その貴重な時を費やしてやっておきたい事があった。あったのだが、もう何も考えられない。何をするでもなく机に向かい、ただ空くうを見詰めている。

  キャンパスの隅にある医学研究施設、そこに私の居場所デスクがある。

  大きなフロアをパーテーションで区切り、個室を持つ事のできない研究員や院生が机を並べている。そこに一人、天井の灯りを消し、デスクランプだけは皓々と照らしながら、ぽつんと座している。

  研究とは孤独な作業である。いざ実験室入りとなれば人員スタッフを揃えるが、研究テーマそのものは独りで決めなければならない。教授に相談はできても、何の手掛かりもなく「何をすれば良いのでしょうか?」などと尋ねる事はできない。それでは宿題を欲しがる子供みたいだ。

  だから、こうやって独りで居残っている。足を机に乗せて、両手を頭の後ろで組みながら、だらしなく口を開けて呆然としている。他人ひとには見せたくない姿だ。認知症の一種だと診断されかねない。実際それに近いと自分でも思う。

  静けさをもっと完全なものにしたくて、工具を捜す事にした。椅子のネジが取れ掛かっていて、情けない悲鳴を上げているのだ。

  工具類は肝心な時に身を隠す癖があるらしく、さっきから懸命に捜しているが一向に見付からない。意地になって探索を続けていたのだが、ふと気付いてしまった。私は何をしているのだ? 今はそんな事をすべき時ではないのに。

 「逃避だな」

  そう呟くと、完全に何もする気がなくなってしまった。ぎしぎしと鳴る椅子の背もたれに体重を掛けて、いつ壊れるか試してみる。無意味な自虐行為だ。

  遠くから鼻歌が近づいてくる。グノーのアベマリアのようであり、東北民謡にも聞こえる音痴振りだ。

  そのまま通り過ぎると思いきや、歌声の主が声を掛けてきた。

 「あら、居たんだ。早いねー」

 「先輩こそ早いじゃないですか。私は泊まりですよ」

 「学会も終わったのに?」

 「ええ、教授の手伝いは一段落です。これから何をすべきかと悩んでいましてね。いろいろと文献を漁っていました」

  彼女は研究室の助教を務める瓜生先輩。ショートヘアの眼鏡美人で、天才にありがちな素っ頓狂な性格の持ち主でもある。よって行動が全く読めない。私よりかなり歳若く見えるが、随分と古株らしく、教授にも一目置かれている存在だ。

 「聞いてるよ。ずっとやってきた研究を捨てるらしいね。カスちゃんも思い切ったもんだわ」

 「春日かすがですって。最後の『ガ』を省略しても大して時間の節約にはなりませんよ」

 「その代わりに僕の事をウリュちゃんと呼んでも良いよ」

  ガタッ

 思わず転けそうになる。背もたれが完全に壊れてしまった。

 「0・5の『ウ』を省略する意味が分かりません」

 「0・5?」

 「ウリュウの『ウ』とかサトウの『ウ』の事ですよ。0・5ぐらいしか発音していないでしょう?」

 「いちいち細かいねぇ」

 「スミマセンね。性分ですから」

 「え~と、何の話だっけ?」

 「研究はそれ一本でやってきましたからね。投げ出したら何も残らなくなってしまいました。それで、新しい課題を何にしようかと悩んでいるのですよ」

 「教授には相談した?」

 「ええ、それとなくですが。先生からは『人生、時間はたっぷりあるのだから存分に悩め』と言われてしまいました」

 「あの人らしいね。僕もそう思うな。医学の研究に携わる者なら、何をするかで悩んで然るべきだよ」

 「悩んでいた理由を忘れてしまう程、悩んだのですがね」

  先輩は私のデスクにちょこんとお尻をのせて、短い足をぶらぶらとさせている。

 「医学ってね、昔も今も尊重され過ぎてるんじゃないかな。研究のためなら人員も資金も使い放題でしょ。命もね。動物や、それにヒトだって実験対象にしてきた。だから、何を研究するのかを決めるのに幾ら悩んでも足りないくらいだと思うよ。その為に誰かが犠牲を払うのだから」

  そうだ。私が逃避している理由はそこにある。

  実学至上主義の現代において、臨床実験の対象になりたいと声を上げる者は多い。生活が保障される事が大きな理由だろうが、彼らの多くは自暴自棄になっていたり、ユニークな経験をしたいだけであったりと、その意義や危険性を理解していないケースが多い。

  遺伝の関係で短命が続く家系もあるし、身のまわりに死が満ちている環境で育つ者もいる。彼らには自分の生命に頓着しない傾向がある。せめて誰かの役に立ってから死にたいと考えているのかも知れない。そして研究者側も、まるでおもちゃを扱う様に軽い気持ちでそれに応じてしまう。

  やってみたい、というだけの研究ならばアイデアは尽きない。

  左右の脳をつなぐ『脳梁』という器官がある。物事を関連付けて考えたり、推し量ったりするのに必要な部位だ。男性と比べて女性はこの器官が発達している。

  脳梁を欠損してしまうとサヴァン症候群が発症する。その結果、思索や推論はできなくなるが、記憶力は異常なまでに発達する。例えば、分厚い辞書を一冊丸ごと覚えるなんて事も容易になる。写真を撮って画像をメモリーに残す様に、短時間で全てを記憶できるのだ。四0五頁には『い』が九七回使われているとか、左下にシミがあるなんて事まですっかり覚えてしまえるだろう。

  そこで、正常な被験者をサヴァン症にして、何か有用な専門知識を大量に植え付け、その後治療を施すのはどうだろうか。更に、通常よりも脳梁を太くしてみるのも面白い。脳梁が発達している人は直感が鋭くなる。大量の知識があって、しかも直感が鋭い。これは、いわゆるベテランの事である。どの分野でもそんな人材を欲しているだろう。

  だが、幾ら面白そうだとしても、そんな理由で他人の脳をいじったりはできない。

 「この際ですから、先輩の研究の手伝いをするというのはどうでしょうか?」

 「人手は足りているけれど、どうしてもというのなら構わないよ。でも君の出世の道を閉ざす事になるね」

 「出世、ですか」

 「うん、大事なコトでしょ」

  もう、そんな欲望は持っていないのだが・・・・

 彼女は更に畳み掛ける。

 「成果第一の世の中だし、独自性のないものはその他大勢の一部になってしまう。プロジェクトの端っこに居ました、なんて経歴は、他人を蹴落とす道具にならないよ」

  医学部は完全なヒエラルキーを形成している。学生は全校で六百名。職業医師になるものもいるが、殆どは学者を目指して大学院に上がる。院には五十の研究室があり、教授の数も五十名。准教授、講師、助教の数もほぼ同じ。皆この五十席の椅子を狙っているのだ。

  助教になれば、後はエスカレーター式に年功序列で上がって行ける。反面、上がつっかえていればそれ以上出世できない。出世したいのなら、自分と同年代や年下の者が上役にいない事が最低条件となる。

  もっとも、他大学や民間研究施設へ移れば出世の道はある。但し手土産が必要で、各々の分野でそれなりの実績を積み、名が知れ渡る様にならねばならない。だから私とて他人の手伝いをしている場合ではないのだ。

 「先輩の研究は進んでいますか?」

 「まあそれなりだね。エテコリーナちゃんの実験も昨夜で終了だよ。なむなむ」

 「クローンボノボでしたっけ、エテコリーナは」

 「そう、極めて高価な実験対象だったよ」

 「で、終了したという事はお亡くなりあそばした訳ですね」

 「頭蓋をぱかっと開いてね。そーだ、これを返さなくちゃ」

  彼女はマイナスドライバーを私に手渡した。

 「持って行ったのは貴女でしたか。でも何に使ったのですか?」

 「聞かない方が精神衛生上良いと思うけれど、聞く?」

 「聞きません」

  彼女は私の反応に満足したらしく「じゃ」と一言残して去ってしまった。

  私はクレゾールで両手を丹念に洗い、ドライバーを煮沸消毒する準備をしなくてはならなくなった。

  我々が属する『高次脳機能研究室』は、簡単に言えば『脳の働き』を調べている。更にはマイクロマシンでニューロンネットワークに細工をして、新しい治療や機能向上の研究をしているのだ。度重なる動物実験を経て、最終段階では臨床実験を行う。ヒトが実験対象となるのだ。またそうしなければ意味がない。

  大部屋に同僚達が集まる時間になって、ようやく椅子を修理し終えた。外へ出る事にする。日中のこの場所は余りに騒がしくて、気が滅入るのだ。

  研究棟の横手には庭があって、木々と芝生の間に散策路が設えてある。この庭を必要としている者は多いらしく、皆うろうろと、時には何かつぶやきながら歩き詰めている。勿論、自分もその一人だ。 

  よれよれの白衣のポケットに両手を突っ込み、背中を丸めて、足を引き摺って歩く。悪い癖だが直せない。それでサンダルの外側だけが早く痛む。

  不思議なもので、こうやって動いていると孤独になれる。加速度のせいだろうか。

  ここ最近、ちゃんと眠った覚えがない。そろそろ他人の診断を仰ぐべきかとも思える。新しい抗鬱剤の実験に付き合えれば一石二鳥なのだが、これまでハイになった記憶がない程の鬱体質なので、良いデータを出す事は期待できないだろう。

  鬱との付き合いは長い。自覚したのは六、七歳の頃だろうか。

  当時の私は注目の的であった。五歳の時に知能テストを受けさせられたのだが、その結果がとんでもないものだったらしい。私は施設に引き渡され、特別なカリキュラムを受けさせられる事になった。羨ましがられたり、あまつさえ「おまえには悩みがないだろう」と言われた事もあったが、冗談ではない。周囲の期待を背負い、好奇の目に晒される人生が安楽である筈がない。それがどんなに疎ましいか。

  そう言えば、大学病院に若い歌舞伎役者が入院していると聞いた。彼は幼い頃から卓越した演技を披露して、百年に一人の逸材だと評されているとか。

  その才能には遺伝子的な要因もあろうが、またその遺伝子的要因で虚弱であり、首から下は満身創痍なのだそうだ。有効な治療法が見付からず、ただ延命措置だけが続けられているらしい。

  彼はどんなプレッシャーを感じていたのだろう。そして、不自由な身体で素晴らしい結果を出し続けていた。周囲の期待に応えようとしていたのだ。

  本当の天才とは彼のような人を言うのだ。私は違う。

  座ろうと思っていたベンチに先客がいる。

  少女だ。白いニットのワンピースを着ている。大きな帽子が印象的だ。あひる口に広いおでこ。何だか剽軽で愛らしい。

  朝食だろう。膝の上にナプキンを拡げて食事をしている。

  ふと声を掛けたくなる。

 「美味しそうですね」

  これは拙まずい。欠食児のようなアプローチをしてしまった。

 「先生も召し上がりますか?」

  先生と呼ばれるのは初めてだ。一応、博士号は持っているけれど。

 「白衣を着ていますが先生じゃないですよ。研究員です」

 「それでも先生ですわ」

  彼女が食べているのはアイシングの掛かったスコーン。

 「センセ、どうぞ」

 「ス、スミマセン」

  恐縮しながら隣に座る。思えば、食欲が湧くなんて久しぶりだ。

  彼女はポットからコーヒーを注ぎ、スコーンを新しいナプキンに包んで渡してくれた。殺伐とした生活を送っているので、それだけでもじーんとしてしまう。瓜生先輩ならば鉛筆に突き刺して渡してくるに違いないのだ。

  コーヒーはミルクたっぷりで、スコーンはどこまでも甘い。血糖値が上がるのを実感する。

  夢中で食べていると、ぽろぽろと口元からこぼれてしまう。余程可笑しいのだろう。彼女はぷっと吹き出して、それから肩を震わせて笑いをこらえている。

  一方、彼女は上手に食べる。少しづつ食べればこぼれないのだと初めて知った。

 「綺麗な食べ方ですね」

 「いいえ先生。先生の食べている姿は好きです。そんなに美味しそうに食べて頂ければ嬉しいですもの」

  そうか、そう言われれば悪い気はしない。

  世の中にはこんな少女もいるのだ。先輩も見習って欲しい。大体、化粧ぐらいすべきなのだ。この少女の化粧の自然な事。秋らしく落ち着いた感じのリップに薄らとした色味の目元。清楚で可憐じゃないか。

  それから少し世間話をして、礼を述べて席を立った。

  名前を聞き忘れた。何たる失態か。

  デスクに戻ると、今月の被験者一覧が届けられていた。臨床実験に参加したい人達の名簿である。年齢・性別・既往症の有無・DNAのタイプなどのデータが列記されている。

  その中に幼い少年を見付けた。知り合いではないが、彼がどんな人生を送ってきたのかを想像すると落ち込まざるを得ない。彼はどうして、多少の金銭と我が身を交換しようと思い至ったのだろう。

  確かに、DNA鑑定をすれば平均余命を知る事もできよう。しかし、それは確率論的にどうかという話である。喩え鑑定結果の信頼度が90%だとしても、残りの一割は違う結果になるのだから。

  少年のDNAデータを端末に入れてみる。その結果は瞬時に弾き出された。

 『・・・・虚弱短命族(Ⅲ型)、十五歳時失明率98%、成人時生存率4%・・・・』

  彼は現在十二歳、既往症の欄に『虚弱体質・強度弱視』と記載されている。

  無力感に苛まれているところに、瓜生先輩から「部屋にこい」とのメールが送られてきた。我々研究者が交わしている通信文はいつもこんな感じで、簡潔である事を美徳としている。味も素っ気もないが、今は救われた気分だ。

  先輩の研究室へ。いつも通りノックもせずに入る。

  先輩はきょとんとしている。

 「あれ、顔色がちょっと良くなったね。昨日のレポートだけど、見る?」

  エテコリーナのあられもない姿を写した写真とデータ表を受け取る。写真の方は食後すぐに見るものでもないので、遠ざけておいて、データに目を走らせる。予想より少し劣るが悪いデータではない。こと実験に関しては準備を怠らない先輩らしい結果だ。

 「これは良い結果が出ていますね」

  そう言われて彼女は頭を掻いている。

  同僚の一人が口を挟む。狐目をした男で『工藤』と言う。

 「これのどこが良いってんだ? 旧来型よりも着床数が少ないじゃないか」

  先輩を差し置いて私が反論する。

 「この新型マイクロマシン薬は『毒性を少なくする』事を目的としているんだ。狙った箇所に着床している数に比べて、それ以外では自然崩壊が進んでいるじゃないか。その価値が分からないのか」

 「流石はカスちゃんだね。首席卒業だけの事はある」

  先輩の言葉が気に入らなかったのか、工藤はこちらを睨み、そしてぷいと出て行った。

  部屋には先輩と私、それにもう一人の同僚である『村井』だけになった。こいつはいつも眠そうな目をしている。

 「ムーちゃんはどう思う?」

  先輩は愛称を付けるのが好きで、村井はムーちゃん、工藤はやはり0・5の『ウ』を略してクドちゃんと呼んでいる。

 「そうですね。良さそうですね」

  彼は自分の意見を持たない種の人間である。こんな場合は常に追従だ。

  結局、先輩と私とで侃々諤々と議論を続ける。そしてまだ臨床に上げるのは早いとの結論になって、その旨が教授に伝えられる事となった。

  昼。

  先輩はレポートの仕上げに忙しい。村井を連れて食堂へ行く。食欲はないが。

  少し悩んだが、食べ物は注文せずにお茶を飲むだけにした。村井はいつものAランチだ。こいつは良く食べる。先祖の祟りが子に報いたのだろうか。

 「なあ村井、お前の先祖は何をやっていたんだ?」

 「え? ああ『食品汚染時代』の事だね」

  かつて、健康ブームに沸き返っていた時代があった。人々はヒステリックなまでに食の安全に拘り、人工的な化学物質、特に農薬などは極端に忌み嫌われていた。

  そこで救世主とも言うべき新種の食物が開発された。それは農薬を必要としない、虫や菌に冒される事のない新種の食品植物群である。ずっと不快に思われてきた遺伝子組み替え植物が面目躍如を成したのだ。やがて米や小麦、大豆、その他の穀物類全てが新種と入れ替わった。

  しかしながら、虫も食わないものが人体に無害である筈がない。狂牛病における異形プリオンのように、これまでヒトが口にする事のなかった亜蛋白や亜脂肪酸が含まれていたのだ。

  やがて、それはヒトの体内に蓄積され、数々の新しい難症を生んだ。そして精や卵を傷付けるに至ったのである。結果、不妊症や死産が増え、艱難辛苦の末に子を成したとしても、生まれた子は遺伝子的には親と違う、厳密に言えばヒトではない種となった。

  今では、ほぼ全てのヒトに異常因子がある。それが発現するかしないかは運でしかない。

 「その頃、ボクの先祖は農家だったんだ。自然農法の実践者でね、遺伝子組換え食品に反対していたらしくて、後に政治家になってる」

 「ふーん、エリート組だったんだな」

 「そうだよ。ご先祖様には感謝しているんだ。お陰でボクのDNAは優秀なんだよ。汚染度のステージはマイナスだし、由緒正しい『和人長寿族』だしね」

  詰まらぬ事を聞いてしまった。

 「春日君はどんな種族なのかな」

 「汚染度2プラスだよ。代々都会暮らしだから」

 「それはご愁傷様」

  実は『新種長寿族と高知能族のハイブリッド』なのだが、黙っておく。

 「ねえ、春日君は瓜生先輩の事をどう思う?」

 「別に。元気な人だとは思うけれど?」

 「そう、良かった」

 「何が?」

 「君が一番、可愛がられてる気がしたからさ」

 「そうか? 今朝も虐められたけれどな」

 「そう言うの、愛情の裏返しじゃないかな」

 「止めてくれ。小学生じゃあるまいし」

  研究所でそんな浮いた話はしたくない。ここは脳着床型マイクロマシンを基礎理論から構築し実用化した、言わば脳医学研究の頂点だ。恋愛をする場所ではない。互いの才覚を角突き合わせる場所なのだ。

  その歴史は輝かしく、特許料だけでも莫大な収入がある。それは一旦国庫に納められるが、その代わりに潤沢な研究費を再分配されている。他の研究所が羨む程だ。お陰でヒラの研究員であってもプレゼンテーションに通れば予算が付く。我々はそうして個人発案の研究をし、結果を残して全国に散らばる。水が高きから低きに流れる様に、この孤高の場所から他の研究施設へと移り拡がるのだ。ここに残れるのは五、六年に一人ぐらいであろうか。瓜生先輩がその一人である。

  自分のデスクで先輩のレポートを受け取る。この人は仕事が早い。二、三、気になる箇所があったのでメールを送っておく。彼女の文章は興が乗ると感情的になる傾向があるのだ。送って数秒で「多謝トーチエ」と返事がきた。この人はいつ休んでいるのだろう。

  このまま座っていても仕事が進む訳じゃなし・・・・と言い訳をして中庭に出る。また彼女に逢えるかも知れないと思っているのだ。記念にと検体撮影用のカメラまで準備して。

  ベンチまでくると、彼女はいた。

  今度は昼食を摂っている。ミルクティーにサンドウイッチ。中身は胡瓜にハム、それにマーマレードだろうか。どれも美味しそうだ。

 「座っても?」

 「ええ。また差し上げますね」

 「どれがよろしいですか」と聞かれて、マーマレードのものをお願いした。

  甘さが身体に染み渡る。濃く煎じた紅茶とよく合う。

  今度こそ名前を聞かなくては。自分の名を名乗ってから、意を決して切り出す。

 「名前を聞いても良いですか?」

 「やっと聞いて下さいましたね。でも教えてあげません」

 「え?」

 「あだ名を付けてみて下さい。私に似合うあだ名」

  そうきたか。しかし、意地悪ならこっちは格上だ。いつも鍛えられている。

 「そうだな『デコちゃん』にしよう」

 「ええーっ、違うのにして下さい」

 「じゃあ『ガア子』かな」

 「そんなあだ名ではもう何も差し上げませんよ」

  その一言に降参して『おでこちゃん』で妥協した。それでも彼女は不満そうだったが、こちらとしてもこれ以上の譲歩はできない。

 「先生、普段はどこにいらっしゃるのですか?」

 「ここから見えるかな。あの棟の二階の窓。あの席にいるよ」

 「いつも灯りが消えない場所ですね」

  私も個人情報が欲しい。

 「ねえ、君はどこに住んでいるの?」

 「来客用の宿泊施設です」

  誰かの付き添いなのだろう。

 「部屋番号を聞かせて欲しいな」

  彼女は下を向いてしまった。どうやら焦り過ぎたらしい。

 「いや冗談。また逢えるかな、明日の朝にでも」

  彼女は力強く頷いた。

  良かった。性急に全てを欲しがってはならない。今日も貴重な人生訓を得られた。

  最後は笑い合って別れる。別れ際、彼女の横顔を写真に納めた。彼女はおでこを気にして前髪を揃えたりしている。可哀想な事を言ってしまったようだ。

  本当は一緒に写りたっかたのだが、このポートレートで満足するとしよう。

  午後、先輩のお供で教授室へ行く。

  教授の他、准教授と外国人の講師も揃っている。彼女はてきぱきと準備を整え、素早くペーパーを配布して報告を始めた。これでは私が手伝う事など何もない。

  先輩が淀みなく報告するのを傍らで聞いていた。教授は結果に満足そうだ。その場で追加予算も認められた。

  教授が暇そうにしている私に話し掛ける。

 「春日君、やはり明日のプレゼンには参加しないのかね」

 「ええ、理由は先週申し上げた通りです。もう少し時間を戴ければと」

 「そうか」

  教授は何故かにやりとした。極端に言葉が少ない人で今一つ真意を掴みかねる。どうも苦手なタイプだ。

  戻り道、先輩と話す。

 「教授が嫌らしく笑っていましたけれど、あれは何だったのでしょうね」

 「分からないかなー、簡単な事だけど。まあそれも含めてよく考えてごらんよ」

  これでは禅問答だ。

  夜は久しぶりに熟睡した。二度も食事を与えてくれた少女のお陰に違いない。

  翌朝。

  デスクに着いて中庭を見ると、ベンチに彼女がいる。思えば昨日出逢ったのも早朝であった。

  小走りで彼女の元へ行く。

  笑顔で迎えてくれた彼女は、今度はお味噌汁と梅のおにぎりを出してくれた。ここまでくると餌付けに近い。

  カップから湯気が出ている。この暖かさが嬉しい。

 「お味噌汁、美味しいよ」というと、彼女は満面の笑みを浮かべて喜んだ。

  彼女に尋ねる。

 「ねえ、君は誰かの付き添いできているのかな」

 「いいえ、違います」

  彼女はきっぱりと答えた。予想は外れだった。

 「そう・・・・でも学生じゃなさそうだし、患者さんかな」

 「それに近いと思います」

  はっきりとしない。表情が暗い。

  どうしたものやらと思案していると、彼女が手のひらを広げてこう言った。

 「ベンチに落ちていたのですが、これ、何でしょうか」

  羽根の付いた黒い粒。

 「ああ、これは秋楡の種子だよ。翼種って言うんだ」

 「どれが秋楡?」

 「ほら、そこにある高木だよ。十メートルはありそうなやつ。九月に淡い黄色の花を咲かせて、一一月から今頃にかけて種を落とすんだ」

  二人して古木を見上げる。

 「どうして羽根が付いているの?」

 「秋楡は大量に種を作る。でも自分の足下に蒔いたのでは若木は育たない。日陰になっちゃうからね。タンポポみたく軽い種なら遠くまで飛ばせるけれど、この種子は重いだろう?だから、せめて一片の羽根を付けて、少しでも遠くへ落とそうとしたのだろうね」

 「足元に蒔いてしまった種は無駄になるの?」

 「無駄ではないよ。この木はもう古いから、次の世代へと交代する時期かも知れないし、ここらに住み着いているヒメネズミの餌になっているのかも」

 「そう」

  彼女はぽつりと呟いた。それから暫く種子を見詰めて、枯れ芝の中に埋めた。

  表情は沈んだままだ。

 「何か心配事があるんじゃないかな。よかったら聞かせて欲しい」

  彼女は首を横に振る。

  こんな時に何か軽口でも叩ければ、と思う。

 「お昼にも逢えるかな」と尋ねたが、逢えないそうだ。

  私と逢うよりも重要な事は沢山あるだろう。そう分かっていても嫉妬に似た感情が生まれてしまう。

  今日は午前中から個人研究のプレゼンテーションがある。

  会議室に室員が揃う。院生も合わせて十一名。発表者は私以外の研究員二名で、午前と午後を通して行われる。

  まずは村井が発表する。

  配られたテキストに研究の主題が印字されている。『ランナーズ・ハイ現象の制御に関する研究』とあった。

  題を見ただけで内容は知れる。脳内麻薬を増加させる研究なのだろう。俗なテーマだし、目的が弱すぎる。教授達も退屈そうだ。こいつは誰にも相談せずに主題を決めたのだろうか。

  質疑応答の時間になっても質問が出ない。近年希に見る駄作だ。

  続けて工藤が発表する。

  主題を見て驚いた。『ニューロンネットワークの読み取りと再書き込みによる脳腫瘍施術改善の研究』と書かれている。これは私が放り投げた研究ではないか。

  脳外科医にとって、脳腫瘍の摘出手術は悩ましいものだ。

  再発可能性の低減と脳機能の保全という全く正反対の目的を同時に果たさなければならない。大きく切除して再発を防ぐか、小さく切って後遺症を少なくするか、どの医師も葛藤に苛まれる。

  そこで私はこう考えていた。腫瘍周辺のまだ機能している部位、そのニューロンネットワークを他の場所に転写して代用させる。そうすれば腫瘍を大きく切除したとしても、後遺症が減殺されるのではないかと。

  奴は「教授の許可を得られたのでこの研究を進めたい」と語っている。昨日教授がほくそ笑んでいたのはこの事だろうか。

  プレゼンの全工程が終了した。

  教授から助教までの四人は別室に移って議論を続けている。

  私は今、最高に面白くない。そりゃ、捨てた研究なのだから誰が継いでも構わない。しかし一言あっても良さそうなものだ。

  暫くして発表があった。両者とも予算が出るそうだ。村井の奴は万歳でもしそうな勢いで喜んでいる。工藤は無言で部屋を出て行った。隠れて大笑いしているに違いない。詰まらん結果だ。

  翌日。

  あの少女はまだ姿を見せない。大部屋の窓からベンチを凝視して一日が過ぎてしまいそうだ。この荒んだ気持ちをなんとかして欲しいのに。

  午後になって、村井が私のデスクにやってきた。

 「昨日のプレゼン、どうだったかな」

  真意は伏せて当たり障りのない反応をしておく。

 「まあ、予算が付いたのだから、良かったんじゃないか?」

 「そうか、君もそう思ってくれるかい」

  こいつは他人の悪意に鈍感らしい。何を勘違いしたのか、まくし立てる様に喋り出した。

 「ちょっと不安だったんだ。でも僕は通ると信じていたね。昔から脳内麻薬の制御に興味があってね。それでこっそり小遣い稼ぎもしているんだ」

  昨日の段階で全員がそう思っただろうな。こいつは犯罪者で快楽主義者だと。

 「この研究は成功させる自信がある。もう自分を対象にして臨床実験を進めているしね。これからは好きな時に好きなだけトリップできる様になるんだ」

 「そこまで自信があるのなら、研究室の予算を使わずに個人でやれば良かったんじゃないか? その方が儲かるだろうに」

 「いや、それじゃあ駄目なんだ。今の講師は数年で母国に帰る。そうすればその席が空く。それを狙っているんだ」

 「研究室に残るつもりなのか? 講師にはなれても教授にまではなれないだろうに」

 「瓜生先輩かい? 彼女は傍流さ。その証拠に実務実験ばかりをしている。いずれ、この僕が追い抜くだろうね。そしてこう言ってやるのさ。『君は結婚して引退したらどうかね。何なら僕が貰ってやるよ』ってね」

  幸せな奴だ。

  村井はなおも喋り続ける。

 「彼女のDNAは汚染度3プラスだけれど、珍しい『小人不老族』なんだ。ボクの遺伝子は身体が大きくなる性質も持ち合わせているから、ベストなマッチングなんだよ」

  こいつの場合、他人の脳の前に自分の脳を徹底的に調べる必要がありそうだ。

  彼女がやっている研究が如何に重要で、かつ、コンプライアンスの見地からも隙のないものなのか理解できないらしい。彼女は非の打ちどころのない経歴を積み上げようとしている。この研究室が一丸となって彼女に期待し、守ろうとしているのだ。

  一方、こいつは今回のプレゼン成功で教授になれない事が確定してしまった。犯罪の片棒を担ぐ様な研究をしている事が公文書に記載されてしまうのだ。

  馬鹿は死ななきゃ治らない。そして何をしでかすか分からない。ここは黙っておくべきだろう。

  翌朝。

  中庭のベンチに座っている彼女を見付ける。ようやく逢えた。歩み寄って隣に座る。

 「あれ、目が悪いのかい?」

  彼女は左目にガーゼをあてがっている。

 「・・・・ええ、でも大丈夫です」

 「大丈夫って感じでもないけれど」

 「本当に大丈夫・・・・あの、これを」

  彼女から紙片を受け取る。彼女の部屋番号が記載されている。更には『明後日の午前五時に』と書き添えてあった。

 「行っても良い、って事かな」

  彼女は下を向いたまま頷いた。

  一昨日の段階で邪な気持ちは消えている。そんな事よりも彼女の事が知りたいし、心配があるなら助力したい。とにかく時間を掛けて話をしたいのだ。しかし、この奇妙な感情は何と分析すれば良いのだろう。

  午後。

  工藤が声を掛けてきた。

 「協力して欲しい」

  相変わらず太々しい奴だ。こっちもぞんざいに答える。

 「何をだ」

  彼は言葉に詰まる。それでも続けて言う。

 「実験自体は俺が進める。その前に基礎理論を構築する手伝いをして欲しい」

 「私は忙しい」

  奴は目を瞑って、怒りを抑えてから話を続けた。

 「済まない。お前の研究を横取りしてしまった。一言ことわろうとも思ったんだが、詰まらんプライドが邪魔をして言い出せなかったんだ」

  彼にしては謙虚な態度だ。

 「その言葉に免じて許してやろう。でもこれだけは聞かせろ。どうして研究を引き継ごうと思ったんだ?」

 「俺だって独自の研究をしようと考えていたんだ。でも教授が言う『やるべき事』が何なのか理解できなかった。どうしても『やれそうな事』しか思い付かないんだ」

 「どうして私が研究を捨てたのか、それが分かるか?」

 「ああ、この研究は先が長い。一世代では完成しないだろう」

 「そうだ。そして新しい脳腫瘍の術式が開発されつつある。施術マイクロマシンを活用して腫瘍部位だけを分離する方法だ。それが完成すれば目的そのものがなくなってしまう」

 「そうなのか・・・・でも研究する意味はまだあるんじゃないか? 認知症か物理的損傷の治療になら使えるかも知れない」

 「施術マイクロマシンの開発者もその検討をしているだろうな。どちらも可能性は未知数だが、こちらの分が悪そうだ。もしそうだとしたら、何の役にも立たない研究に他人を巻き込んでしまう。自らの身体を提供してくれる被験者を粗略に扱う事になるんだぞ」

 「・・・・そうだな、お前の意志を尊重して、何かの治療に役立つ研究だと確かめらればければ、俺も捨てる」

  工藤はきっぱりと、そう断言した。

  こいつとじっくり話をする機会がなかったが、村井と違って真面目な性格らしい。

  机の引き出しからメモリーデバイスを取り出し、彼に渡した。

 「これに私が二年間やってきた事全てが入っている。自由に使ってくれ。しかし自分が口にした事は守れよ。面白そうだとか、自分の地位や名誉の為に臨床実験をする事は止めてくれ」

  彼は「ああ」と応えて去って行った。

  これで良かった筈だ。決断した事に未練はないが、何だか心に穴が空いた気分だ。

  夜。

  先輩に呼び出されて食事をする。そうは言ってもいつもの食堂だ。

 「カスちゃんとデートするのは初めてかな」

 「何度もご一緒させて頂いていますよ。光栄な事です」

  物悲しいデートだ。広い食堂には先輩と私、それにキッチンのおばちゃんしかいない。明かりはすっかり消されて、このカウンター前の席だけが灯されている。

  先輩は山菜とろろ月見そばを啜っている。こっちはきつねうどん。

 「おごりだから高い物を頼めば良いのに。遠慮してる?」

 「この時間は麺類しかありませんよ。今度、外で動物性蛋白質の塊でも喰わして下さい」

  彼女はけらけらと笑って承諾した。この陽気な性格にはいつも救われる。一緒にいて苦にならない。

  二人とも食べ終わり、紙コップに入ったコーヒーを飲みながら雑談を続ける。

 「カスちゃん、今回のプレゼンの結果、どう思う?」

 「どうって、正直言って以外でしたね」

 「何故?」

 「村井の研究は無意味。工藤は・・・・まあ、アイツに関してはこれからってところでしょうが」

 「クドちゃんと話をしたみたいだね」

 「ええ」

 「わだかまりは取れた?」

 「好きにはなれませんがね」

 「教授がクドちゃんにね、カスちゃんと話をしろって言っていたの。どうしてこの研究を捨てたか、どうせお前は考えても分からないだろうから、直接聞けって」

  教授も厳しい事を言うものだ。

  先輩は続けて話す。

 「教授はもうすぐ引退でしょ? 今回は准教授が後を継ぐけれど、その後の人事は決まっていない」

 「准教授もご年配ですし、先輩が頂点になる日は近いですよ」

 「順当に行けばね。でも世の中には何があるか分からないから、私の下、つまり助教の人選は慎重にしたいの。カスちゃんが立候補してくれれば安心なんだけどな」

  これは有り難いお誘いなのだろう。

 「ムーちゃんは今回のプレゼンで底の浅さを露呈せさちゃったし、クドちゃんの研究も人真似だから評価は低い。後はカスちゃんが頑張れば助教の席が決められる。そう思って今回の結果が出たんだよ」

  二人とも可哀想に。

 「教授は君に『悩め』と言っていたでしょ? そして悩んでいる君を見て喜んでいた。これはね、君に出世して欲しいと思っていたからなんだよ。研究テーマを安直に決める学者は出世できない。倫理感と学者としての欲望、そのバランスが優れている者だけが生き残れる。これは真理だよ」

  悩んだ分、彼らよりは成長しているだろう。しかし私が村井に言ったように、助教になれても教授にはなれないではないか。

 「私が先輩の下になる事を厭えば、話は変わってきますね」

 「そうなっちゃうね。じゃあ、僕とカスちゃんが結婚すれば良いんだよ。そうしたら学校も教授の椅子をもう一つ増やしてくれると思うな。同じ研究を共同で行う教授夫婦なんてキャッチーだし、きっともてはやされるよ」

  恐ろしい事を淡々と語るものだ。

 「考えてみます」

  そう言うのが精一杯だった。思考が停滞して上手い切り返しができない。

 「じゃあ、助教になるか、僕と結婚するか、両方するか、もしくは割り切ったお付き合いだけをするのか返事を待っているね」

  いつの間に四択になったのだ?

  村井よ、お前の読みは正しかった。これに関してだけは。

  翌日。

  寝不足だ。世の中、悩み事の種は尽きない。

  朝から工藤に詰め寄られている。彼に研究結果を引き渡したが、あれから夜を徹して資料を読み続けたらしい。理解できない箇所について質問をぶつけられているのだ。

  自分の事を考えるより、今は彼の仕事を手伝っていたい。

  互いに時間を忘れて、口角泡を飛ばしながら舌戦を繰り広げる。ようやく研究の目鼻が付き、大まかなタイムテーブルが完成した。今は感想戦である。

  端末に向かっている工藤に話し掛ける

「時間が掛かったが、お前の事が理解できたよ」

 「何だと!」

 「そう、それだ。お前は直情的なだけで、基本的には素直で真面目な奴だったんだな」

 「三代続いた下町っ子だからな。怒りっぽいのは優性遺伝だ」

 「それを直せよ。研究者としてはマイナスなだけだ」

 「直せるものか。人に言わせれば、怒っているのが俺のデフォルトらしい。もっとも、俺自身は滅多な事では怒らない質だと思っているんだがな」

 「ひょっとして口が悪いだけなのか?」

 「お上品な喋り方は気に入らないんだ」

 「お上品になんて言わないさ。その端的な物言いも悪くはない。でも口で勝ったところで意味はないだろう? 研究成果で他の連中をビビらせれば良いのさ」

 「そうか、それはカッコイイな」

  素直でよろしい。

  工藤が寮へと引き上げて、デスクに独り残っている。

  彼は酒でも飲むかと誘ってくれたが、断ってしまった。アルコールは脳細胞にダメージを与える。それに今の自分が飲酒を覚えてしまったら、依存症になる可能性が高そうで怖いのだ。

  さて、自分の研究テーマを決めなければならないのだが、そんな作業ができるほど頭が働いてくれそうにない。またいつも通り、両手を頭の後ろへやって足を伸ばし、椅子の背もたれに体重を預けて空を見詰めている。ベッドでは眠れない。この方が眠れそうな感じがするのだ。このまま名も知らぬ少女の事を考えよう。朝になればまた逢える。

 「センセ」

  耳元で囁く声がした。

  どうやら眠ってしまったらしい。

  やや驚いて目を開けると、笑顔の少女が覗き込んでいた。

  パジャマの上に大きめの白いコートを着ている。フードを被って、余っている袖から指先だけをちろりと出している。

 「ごめん、もうそんな時間か。行こうと思っていたんだけれど」

  彼女は笑って応じる。

 「私の部屋から先生が見えたの。それでコートを取り出して、急いで来たのよ」

 「君の部屋から見えるんだね」

  彼女は遠くの光を指差した。どうやらそこが彼女の部屋らしい。

 「目、良くなったみたいだね」

  彼女はコクンと頷く。

 「さあ、私の部屋にきて下さる約束ですよ」

  手を牽かれて外へ出た。今日の彼女は積極的だ。

  外はまだ暗い。

  外灯に今年最後の羽虫が一匹、留まっている。

  女性と手を繋ぐなんて久しぶりだ。その指の細さに戸惑いを覚える。小さく、冷たい手だ。

  彼女の部屋へ。

  勧められるまま奥へと進む。

  リビングがあり、アイボリーを基調とした内装を間接照明の暖かい光が照らしている。片隅には小さなキッチン。その奥は寝室だろうか。ドアがなく空間が繋がっている。

  ソファーに座っている私にハーブティーを出してくれた。冷えた手をカップで温める。彼女は座る事もなしに奥の部屋へと移ってしまった。

  カップを置いて、姿を見せない彼女に話し掛ける。

 「君と話がしたかったんだ」

 「・・・・」

 「良い部屋だね。寮とは雲泥の差だよ」

  返事がない。何をしているのだろう。

 「・・・・センセ」

 「?」

  呼ばれた様だ。招きに応じて奥の部屋へ行く。

  ベッドが目に入る。やはり寝室だ。

  そのベッドの脇に、彼女は立っていた。

  全裸で。

 両腕を垂らし、指を組んでいる。

  粉を振った様に白い肌。

  長い栗色の髪が小さな胸を隠している。

  色素の薄い乳首。

  頭を振って我に返る。脱ぎ捨てられたコートを着させ、ベッドに座らせた。

  仄かな期待はあったけれど、まだ何も要求していない。

  名前すら知らないのに?

  彼女と目が合う。

  潤んで、縋る様な目だった。

  息を飲んで、強く抱き締めた。それ意外に何ができようか。

  甘い匂いがする。

  着させたばかりのコートを脱がせて、折り重なった。

  痩せた肩だ。抱き締めると腕が余る。

  彼女の心音が伝わってくる。

  胸に耳を宛がう。

  鼓動はコトコトと早くなった・・・・

 顔を寄せてもう一度接吻くちづけた。

  これだけは言っておきたい。

 「こうなれて嬉しいよ」

 「私も」 

  彼女が抱き付いてくる。

  彼女の全てが知りたい。過去も未来も、何もかも全て。

 「君の事を教えて欲しい。何も知らないんだ、私は」

  彼女は少し微笑んだ。

 「センセ、私の頭を触ってみて」

 「頭?」

  彼女の手に促されて頭を撫でる。後部頭頂から後頭部にかけて変形が認められた。ぼっこりと膨れ上がっている。

  がばりと起き上がった。

 「レントゲンは!」

  彼女はチェストを指差す。そこから大きな封筒を乱暴に取り出した。

 「これは・・・・」

  写真には歪な後頭骨が写っている。λ型縫合線がきれいに閉じられていて、ここ最近の病理的な異常ではなく、先天的なものである事を表している。MRIではもっと驚くべき結果が写っていた。

 「脳が二つある」

  そんな風に見える。こんな事例は初見だ。

  彼女がぽつりという。

 「シャムなの」

 「結合双生児か」

 「弟はね、小さな脳髄しか残らなかった。でもちゃんと意識を持っているのよ」

 「シャムなら妹じゃないのか。一卵性双生児が未分割の状態で生まれたものをそう呼ぶのだから」

 「説明は受けたのだけれど、難しくて・・・・要は『シャム類似の二卵性双生児』らしいの」

 「ありえない。もしそうなら免疫作用で生きていられない筈だ」

 「ええ、だからここに呼ばれたみたい。私の身体は抗体を生じさせない、何とかって言う特殊な蛋白質を持っているらしいの」

  これが本当の新人類か。

 「難しい事は理解できない。でも私には分かる。私は弟を守りたかったんだと思うの。羊水の中で、そう念じたからこの身体になったのだと思う」

 「治療が必要なのか?」

 「ここに来るまでは何の治療も受けていなかった。だから必要ではないわ」

  この前、彼女は左目にガーゼをあてていた。

  嫌な予感が走る。

 「目を見せて」

  瞳孔反応がない。左目は唯の硝子玉だ。

 「これは?」

 「お話を聞いたの。盲目の可哀想な男の子がいるって。だから先生にお願いして分けてあげたの」

 「どうしてそんな事をする必要があるんだ」

 「折角生きているのに目が見えないなんて可哀想だわ。それに私の目なら移植できる。だからあげたの」

 「馬鹿な・・・・」

  言葉が続かない。

 「私ね、両親も短命だったし、そんなに長生きできないと思うの。それにもう充分なくらい生きた」

 「充分じゃない。これから楽しい事だって沢山あるに違いないんだ」

 「ううん、もう充分。でも弟に怒られちゃったの。どうして目を他人にあげてしまったんだって。この目は弟の目でもあるのだがら、悪い事をしたみたい」

 「話ができるのか」

 「できないわ。でも一日の内、数時間は弟がこの身体を支配している。それで何か伝えたい事があれば、手紙を残す様にしているの」

  その症例も初めて聞く。不思議な身体だ。

 「それでね、もうこの身体は弟に譲る事にしたの。先生に相談したら可能だって」

 「そんな」

 「それにね、弟がこの身体を継ぐのなら、要らなくなる部分ができるでしょう? それを困っている人に分けてあげられる」

  レントゲン写真の間に書類を見付ける。それには彼女に施す予定の術式が書かれていた。

  前頭葉Aを放射性薬物で破壊。

  人格の移行を待って、乳房と卵巣、子宮及び外性器の除去。

  男性器を移植。

  とんでもない。これは殺人だ。

  彼女の両肩をつかんだ。

 「この手術はいつから始まるんだ」

 「もう薬の投与は受けたの。もう少しで私はいなくなる」

  何て事だ・・・・

「でも、一度くらいは誰かに求められたかった。だから先生にきて貰ったの」

  彼女の目が虚ろになる。

 「先生はいつも夜遅くまで起きていたでしょう? 人の幸せの為に、夜も眠らずにお仕事をしているのでしょう? いつも窓から眺めていたわ。憧れていたの。そして声を掛けてくれた。それがどんなに嬉しかったか」

  声が小さくなる。

 「センセ。先生から聞いた秋楡の話、好きだった。私も秋楡になりたい。困っている人に身体を少しづつ分けるの。そして自分の足下に蒔いてしまった種の為に、枯れてしまいたい」

  彼女は目を閉じた。

 「センセ、ありがと。そしてゴメンナサイ・・・・・・・・」

  彼女の意識は少しずつ混濁し、やがて昏睡状態になった。

  身体が無意識に動く。

  脈拍を調べ、気道を確保し、大学病院の救急医療班に連絡を入れる。

  彼らがくるまで、脈を読みながら、その穏やかな表情を見ていた。

  もう、どんな治療を施しても彼女の人格は蘇らないだろう。医学は魔法じゃない。

  彼女は弟に身体を譲ると言っていた。だが、弟君は本当に実在しているのだろうか。確かに写真にはもう一つの脳が写っていた。テニスボール程度の大きさの。そんなに小さな脳がちゃんと機能しているとは考え難い。

  弟君の意識は、彼女が生み出した妄想ではないのか。

  はたと気付いた。

  大学病院に若い歌舞伎役者が入院している。将来を嘱望されている人物だが、有効な治療が見付けられない状況だ。それでも世間は期待し、治療の行く末に注目している。

  彼は、首から下は機能しなくなりつつある。特に消化器官の潰瘍が進み、全てを取り替える必要があるだろうと言われていた。そんな事は事実上不可能だ。しかし、彼女の身体があればそれも可能になる。簡単な話だ。首から下をすっかり挿げ替えてしまえばいい。それを目的に彼女を殺したのではないか。

  怒りに震えて脈が採れなくなる。

  ドアが開く音がして、ドカドカと乱暴な足音が近づく。

 「君か、彼女から聞かされていた男は」

  白衣を着た悪魔がそう言った。

 「さあ、君の出番は終わりだよ。この幸せなロリコン君」

  笑い声が聞こえる。悪魔が私を嘲笑しているのか。

  奥歯が割れる程、噛み締めた。

  こいつが殺したんだ。

  拳を可能な限り強く握って、極限まで大きく振り被って、顔面にぶつけた。

  男は壁に激突して、鼻血を出しながら気絶している。

  鼻と前歯は砕いた実感がある。他の連中は訴えてやるだの何だのと騒いでいたが、どうでも良かった。

  やがて救急医療班がきて、その男を連れて行った。彼女の身柄は知らない連中が運び去ってしまった。

  そして一人になった。

  痛めた手を擦りながら、床に座る。

  もう朝だ。窓から陽が差している。

  朝ぼらけに世界が赤く染まり出す。

  ずっと、闇のままなら良かったのに。

  自分のデスクに座っている。

  どうやって辿り着いたのか覚えていない。

  彼女のところにあった書類は全て取ってきた。あの悪魔達を許す訳には行かない。告発して処刑台に送ってやるつもりだ。

  工藤が声を掛けてくれた。

 「どうかしたのか? 顔が蒼いぞ」

  蒼くもなって当然だろう。詳しく事情を話した。

 「糞野郎どもだな」

  そう、その言葉が聞きたかった。

  連中は何者なのか、二人して調べる。

  工藤が懸命に動いてくれた。

 「遺伝子工学研究室の連中らしいな。医学部内のサーバーにそれらしき記録が残っている」

 「じゃあ、その研究室を燃やしてしまおう」

 「まあ待てって。まずいな、お前が殴ったのは医学部長じゃないのか」

  端末に顔写真が映し出された。

 「確かにこの男だ。どうりで見覚えがある顔だと思ったよ」

  悪魔が判定された。今度は弁護士に連絡を入れる。

  人権保護専門の弁護士を探して連絡を取ってみたが、電話口で渋っている。

 「おたくの大学はしっかりしているから、分厚い契約書も取り交わしている事だろうし、訴え出ても受理されないだろうね。今じゃ尊厳死が認められているから違法性はない、の一言で終わってしまうよ。後は契約時にその彼女が心神耗弱の状態にあったと証明できれば良いんだけれど、それも自前の診断書がありますって言われれば、反論の余地がない」

  頼りにならない。でも事実、そうなのだろう。

  これでお手上げなのか。

  知らぬ間に教授がいた。彼女の残した書類を見ている。

 「教授!」

 「ああ、おはよう。君達が騒いでいるので覗きにきたんだ。この件なら聞いた事があるよ。彼女をこっちで引き取れないかと思案した事もあったのだがね」

  簡単に事情を説明した。

 「そうか、惨い事をするものだ。この件は私に任せて欲しい。懲らしめてやれると思うよ」

  教授は書類を持ち去ってしまった。

  反論をする隙もない。二人とも口を開けたままで教授を見送った。

  夜。

  少し早い初雪が降り出した。予報ではかなりの積雪になるらしい。

  瓜生先輩に呼ばれて、寄宿舎に出向く。

  先輩の部屋に初めてきた者は一様に驚く。可愛らしいぬいぐるみや人形で溢れているのだ。猿の脳みそを掻き回している人の部屋だとは到底思えない。

  先輩がローランドゴリラのぬいぐるみを抱きながら呟く。

 「今回はかなりきついメンタルブローだったみたいだね」

  慰めてくれるなら言い方を選んで欲しい。

 「ええ、否定できません」

 「浮気するからだよ」

 「浮気ではありません。本気でした」

 「尚悪いじゃん」

 「そう言われましても・・・・」

  口を尖らして怒っている。面倒な人だ。それでも根は優しい。

 「話をしてごらんよ」

  彼女と知り合ってから今朝までの経緯を全て話した。包み隠さず。

 「妬けるね。本当に焼くぞ」

 「何をですか? 取り敢えず止めて下さい」

 「そうか、うどんじゃ駄目か」

 「は?」

 「いや、独り言」

  そう言いながら考え込んでいる。

 「君達は嵌められたんじゃないかな」

 「誰に?」

 「教授にね」

 「どうしてですか」

 「教授職は六十歳で定年でしょ。そして彼は今五十九。一方、学部長や学長クラスの管理職なら定年はない。慣例で七十までには退任するみたいだけれど、それまでに勲章を授かる事もできるし、退職金も年金も跳ね上がる」

 「そうみたいですね」

 「今の学部長はまだ若くて当分席は空かない。でも、どうしても欲しければどうする?」

 「奪い取る、でしょうか?」

 「近い。汚名を着せて追い出す。そしてその功績でポイントを稼いで、堂々とその席に座ればいい」

  この一件を権力闘争に使うのか。馬鹿らしい。正義も倫理もあったもんじゃない。でも遺恨は晴らせるのだ。どんなに汚くても、それが叶えられれば満足だ。

 「もう、どうでも良くなっちゃいました」

 「君も腹黒くなるのかな」

 「腹には何も入っていませんよ。食欲もありません」

 「よしよし、カスちゃん可哀想」

  頭を撫でられている。新手の虐めだと思うが、されるがままにしておいた。

  最後に私の頭頂部をぽんと叩く。

 「よし、一発やるか」

 「は?」

 「彼女とやって、僕とはできないなんて言わせないぞ」

 「言わせないぞって・・・・」

  先輩の手が優しく伸びて、私の首の後ろに回る。そして顔を胸に埋めさせた。

  その胸が小さく震えている。

 「ゴメン。君が彼女とベンチで楽しそうにしているのを見てたんだ。彼女が実験対象になっている事も知ってた。でもこんな事になるなんて想像できなかった」

  先輩が泣いている。

 「それでね、君を少し困らせてやろうと思ったんだ。後になって彼女が被験者だと知れば悲しむだろうって。いや違うかな。被験者だと知れば彼女とどこかへ行ってしまいそうだと思ったんだね。だから知らせなかった。狡いね、僕は」

  何があっても笑っている人なのに、私の為に泣いているのか。

 「先輩、もういいですよ。貴女は悪くありません。でも、どうしてそんなに私を想ってくれるのですか?」

 「カスちゃんがね、自分の研究を捨てたからだよ。主席で卒業して順風満帆だったのに、簡単に自分の経歴に汚点を付けた。そんな事は僕にはできない。優し過ぎるよ」

  化粧をした顔がくしゃくしゃになっている。そう言えば化粧をした先輩は初めて見る。

  コットンで目元を拭いてあげていると、鼻を啜りながら指差して言う。

 「ここ! この家具のネジを締めたの」

  ああ、ドライバーの話か。

  ティッシュをあてがって鼻をかませる。

 「はい、チーンして」

 「ちぃーん」

  もう逆らえそうもない。一夜をこの部屋で過ごす事にした。

  翌朝。雪はかなり降り積もっていた。

  私はまた自分のデスクに座っている。

  何をするでもない。

  彼女の部屋だった場所を見ている。

  雪が積もると世界は一色に染まる。そして静寂に包まれる。

  突如、音を立てて木が倒れた。秋楡の古木だ。朽ちかけた幹が湿った雪の重さに耐えられなかったのだろう。

  私は決めた。いや、昨夜の段階で決心は着いていた。

  端末を起動させて、最後のレポートを制作する。

  題名は『研究中止願』

  教授は「残念だ」と一言残し、さっさと受理してしまった。

  工藤は怒りながらも納得し、それでも悔しそうにしている。

  村井は止める振りだけはしてくれた。

  先輩に迫られた四択問題は0番回答をする結果になってしまった。それでも先輩は止めなかった。笑って送り出してくれた。最後まで優しくしてくれたのだ。

  それから私は田舎に引き籠もり、世捨て人の心境で日々を過ごしている。それでも世事は耳に入る。

  教授はまんまと医学部長になり、更には学長にまでなったそうだ。

  研究所運営の改善を行い、各所横断的に人事を一新し、自出の研究室以外での研究を経験しなければ教授になれない制度を作ったりしている。これで秘密裏に蛮行が行われる事もなくなるだろう。結果を見れば権力闘争も悪くはないものだ。

  元の医学部長は刑事責任までは問われなかったが、懲戒免職となり、退職金も年金も失ったそうだ。前歯と鼻骨の治療もできずに細々と暮らしているとか。

  工藤は今でも連絡をくれる。そして、年に一度はこちらを訪れて、あれこれと話をして帰る。 

  こんな事があったらしい。いつまでも助教にもなれない村井がとうとうキレて、教授になった瓜生先輩を襲おうとしたそうだ。それを間一髪で工藤が止めて、それが縁で付き合いだしたとか。工藤はマイクロマシン研に席を移し、そちらの教授になっている。

  やがて二人は結婚し、村井は学外に放逐された。

  私はもう鬱ではない。

  こうやって、のんびりと町医者をやっているのが性に合っているのだろう。やれ神童だの天才だのともてはやされ、自分でもそうありたいと願っていた事が悪かったらしい。全てを放り出してしまったら、頭の中の霧も晴れて、スッキリとした気分になった。

 「神童も四十過ぎればただの人、か」

  私はベッドを覗き込みながら、そう呟いた。

 「センセ、センセ」

 「君はそればかりだね。そろそろ名前で呼んで欲しいものだよ」

 「センセ・・・・」

 「そう言えば、私の事を始めて『先生』と呼んでくれたのは君だったね」

 「・・・・・・・・」

  ベッドの中の人は、申し訳なさそうな表情かおをしている。

  慌てて言い添える。

 「ごめんごめん。君が悪い訳じゃない。記憶がなくて当然なんだ」

  髪を撫でて、軽く接吻くちづけた。

 「センセセンセ」

  良かった。笑顔を取り戻してくれた。

  そして、いつもの口癖。

 「君は、ただ、私と一緒にいてくれるだけでいい。それだけで充分なんだよ。私の可愛い奥さん・・・・」

 

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アベマリアが聴こえる 宮沢誠人 @miyazaw

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