第709話 第2章 4-4 マラカの探索

 マレッティ、ガリアを発動し光輪を出して飛ばす。しかし、まだ距離が足りない。小竜を襲うハーンウルムの森林竜へ届く前に霧散する。対天限儀器の波動の範囲内へ入ったのだ。


 「がんばって……なんとか……ここまで……!!」


 マレッティ、じりじりと小竜がこちらまで飛んでくるのを待つしかなかった。小竜は小回りが効くためなんとか森林竜の攻撃をかわしながら、こちらへ向かって飛んでくる。


 「何をしておる?」


 ふと見かけたマレッティの様子がおかしいのでパオン=ミが駆け寄ってきてマレッティの説明を聴き、あわてて近くの衛視へ声をかける。


 「弓だ、弓を用意せよ!!」


 衛視の一人が急いで長弓を用意し、たちまち森林竜を一匹射殺した。見事な腕前だった。


 その隙に小竜が急降下し、地面すれすれの森林竜が嫌う高度を飛んで、まっすぐ公使館へ向かう。見えなくなってマレッティは気を揉んだが、唐屋根の高塀を越えて真っ黒な小竜が飛びこんできて歓声を上げた。上空でそれを見つけた残る四匹の森林竜が真っ直ぐに向かってきたが、衛視が矢をつがえる前に光輪が唸り、対天限儀器の波動到達範囲外となった瞬間に森林竜をナマス切りに切り刻んだ。


 グワッグワッと鳴き、小竜がマレッティへ駆け寄る。それを抱き寄せ、首や頭をひとしきり撫でて褒めてやると、その首輪を見やる。黒竜紋の刻まれた環があった。デリナがいつもマレッティへよこしていた、連絡用の小竜である。デリナは……、この小竜を密かにミナモへ向けて放っていた。たまたまガラネルが警戒に山中へ放っていたハーンウルムの森林竜に見つかってしまったが、どうにかここまで辿りついたのだ。


 マレッティが震える手でなんとか環の蓋をとり、中より紙縒こよりめいてねじられた小さなホレイサン紙を出す。薄く高級な紙だ。それへ流麗な書体でなにやら走り書きがされていた。とうぜん、マレッティには読めない。パオン=ミへ渡しても、同じだった。


 「なによ……ディスケルの字じゃないの!?」

 「いや、これは、ホレイサン=スタルの字ぞ」


 ホレイサン=スタルの高位の者は、基本的にディスケル文字を使うのだが、ディスケル=スタルの北部ディシナウ語とは書体が異なっておりまったく読めなかった。


 衛視へ見せたが、衛視も読めなかった。身分によって使う書体が異なるためである。

 「とにかく、ミナモ殿へ見せよう」

 ところが、ミナモは留守だった。


 相も変わらず使用人たちはいつ帰ってくるか、まったく分からない。前々から思っていたが、家宰かさいすらいないのである。主人のいない家を誰が管理しているのか、さっぱり分からない。


 「いやな予感がするわよ、パオン=ミ。デリナ様に何かあったんじゃ……!」

 「ううむ……」

 パオン=ミ、思案のしどころだった。


 「拙者がひとっ走り、行ってきましょう」

 二人が驚いて声の方を見る。


 「……マラカ!」

 「あ、あんた、だ……大丈夫なの……その……」


 マラカは何も云わず、不敵な笑みを漏らすだけだった。しかし、その顔はやはり以前と異なり、どこか陰のあるものだった。


 「よい、マレッティ。マラカがやってくれるというのなら、まかせようではないか。しかし、どうやって、どこへ?」


 「ミナモ殿は、聖地の有力者と頻繁に談合を重ね、天御中あめのみなか審神者さにわの情報を集め、反審神者連合のようなものを作っております。また、ディスケル皇太子やそこにいるカンナ殿たちとも頻繁に会っている様子……」


 「カンナちゃんとも!?」

 いつのまに到着していたのか。到着したら、教えてくれると云っていたのに。

 「信用ないわねえ、あたしたち」

 マレッティが不機嫌となる。


 「ま、よい。いまはそれどころではない。では、ミナモ殿がいまどこにいるのか見当がつくというのだな!?」


 「だけど、どうするのよ。あんたが走ったところで、目立つじゃない」

 「拙者のガリアは、完全に人目を避けますぞ」

 「いや、だから、この島ではガリアが……」


 「仕組みはついに分かりませんでしたが、ガリアを封じている力には範囲がありまして、こう……何かしらの仕組みを起点に円を描いております。重要な施設は円が重なって、万が一にも漏れが無いようになっておりますが、街中はけっこう隙間が空いております。隙間から隙間へ辿って行けば、ほとんどガリアを解除されずに進むことが出来ます」


 二人は度肝をぬかれ、何も云うことができなかった。

 「あ……あんた、いつのまにそんなこと……」

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