第702話 第2章 3-2 真の星の巡りの日
「で、真の星の巡りの日はいつだ」
「二十九日よ」
二日早い。
「なるほどな。三十一日がディスケル皇太子やバスクスに通じていると仮定して、先んじて行ってしまうというわけか」
「ガラネル
「策謀は黒竜の専売だが、デリナは素直すぎる。頭はよいが経験が足らぬ。狡猾なガラネルにいいようにされるぞ」
「それも見越してよ」
「しかし……絶妙な日付を考えたものだ。あまり離れていても、色々準備の調整が難しい。二日の誤差なら、直前の変更でも用意ができよう」
「そうであろう」
覆面の隙間の、長老の眼が満足げに細くなる。ぎょろ目は感心して、その大きな眼で長老を見つめた。だがその眼が、こちらは疑念で細くなった。
「よもや、我らへのその情報が欺瞞なのではあるまいな」
長老は大きなため息と共に首を振った。
「いかに我らが反目し合っているとはいえ、
「なる……ほど……」
ぎょろ目が含み笑いを漏らしながら、何度もうなずいた。
「ガラネル奴のあわてる様が眼がうかぶわ。その話はいつ、やつに?」
「皇太子襲撃の報告をせねばならんだろう。そのときはまだ速いぞ」
「バスクスを倒してしまうかもしれんからな」
「そうなったら、たぶらかすのはガラネルだけとなる。ま、前日でよかろう……」
「そのことを知っているのは?」
「この三人のみ」
ぎょろ目が一言も発しない長老の補佐をみやった。小さくうなずく。
「承知」
ぎょろ目が踵を返し、さっさと云ってしまった。長老が安堵の息をつく。
「これでよし」
「本当によかったのですか」
補佐の審神者が初めて低い声を発した。
「よい。散々考えたが、ずっと隠しておいては、当日になってガラネル側へつく可能性がある。やつはそういう男よ。それならば、仲間に引き入れておいた方がよい。腐っても、奴も審神者。聖地の人間だぞ」
補佐はまたも黙った。そして、二人もその神社をあとにした。
数日後。
審神者たちとガラネルたちの二度目の密議が行われた。
カンナ襲撃の報告の密儀である。
三人側の首領は意外や、あっさりと襲撃失敗の報告を行った。それがガラネルの神経を逆撫でする。
「なによ、それ。無駄なの分かってて余計なことしたわけ!?」
「無駄ではありません。聖地でのバスクスめの戦い方や力が分かりましたし、きゃつめは魂魄だけではなく純粋に血肉と共鳴できることも判明しました」
「はああ!?」
ガラネルの顔が真正直に殺気で歪んだ。
「そんな分かりきったことを再確認するために、こちらの手の内をさらけ出してわざわざ相手に警戒させたっていうわけ?」
「?」
ぎょろ眼もそうだが、ガラネルのその言葉は、デリナ以外の審神者の全員が意味を把握しかねた。これまで何百年……いや、千年以上も神権のみを頼りに事を進めてきているので、策謀とか作戦とか、裏取りとか、想定とか、とにかくそういう事を進めるのに要する相手の動きや考え、機微を読むという発想や術を全く持っていない。思ったことをただやり、神の言葉として伝えるので、誰も反論も反対もしないためである。
およそデリナやガラネル、アーリーの相手が務まるものではない。
(やっぱり、こいつら、殺そう)
ガラネルは確信を再認識し、もう無視することにした。
「わかったわかった。で、次は何かするの?」
「何かするのはガラネル殿ぞ」
「は!?」
ガラネルが青筋を立てて牙をむいたので、さすがにヒチリ=キリアが咳払いし、珍しく間に入った。
「バスクスめの迎撃はそなたの任であろう。いまの情報を参考にせよ」
「さんこ……!」
こんなゴミ情報をドヤ顔で提供され、恩着せがましく参考にせよなどと、ガラネルは王族の気位もあり耐えがたさに細かく震えだしたが、すぐに落ち着いた。関わるだけ精神に悪い。無視に限る。どうせ殺す。
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