第701話 第2章 3-1 欺瞞

 ヒチリ=キリアがうなずく。

 「その可能性はあるだろうな」


 「きっとウガマールのアテォレ神殿にも、何らかの形でこの結晶が関係していると思うわ。とにかく、今回の儀式とこの結晶は切っても切れないのだけは判明している。それだけじゃ、まだ信じられない?」


 ガラネルの目つきが変わってくる。ヒチリ=キリアが信じようと信じまいと、関係ない。あんたは私の云うことを聴いて、ただデリナのガリアを遣えばいいのよ。そういう眼だった。


 「……わかった。まあいいさ。我は仮初の存在だ。云われたことをやるだけだからな」


 それを分かっているのかどうか、ヒチリ=キリアが同意する。ガラネルがうなずいた。


 「で、どういう儀式をするのだ? 竜泰斗殿や湖上古神殿でのエセ儀式ではないのだろう? こんな狭いのだからな!」


 「その打ち合わせのために三人で集まったのよ」

 デリナもうなずく。

 「……審神者さにわどもはいいのか?」

 「知らないわよ、あんな連中……」


 ガラネルが云い捨て、それから、一刻ほど地下でダールだけによる本当の密儀を行った。



 3


 「欺瞞情報だと!?」


 突然のことに、声の甲高い、ぎょろ目の、先日の密議で三人の側の首領として据わっていた若い審神者の声がさらにうわずった。


 「シッ……声が高い」

 四人の側の首領であった長老が、文字通りのことを云った。


 ここは、天御中あめのみなかにいくつかある神社の本殿の中だった。いま、ここには審神者の中でも長老とぎょろ目、そして長老の補佐で四人側のナンバーツーである実直な壮年の男性の三人しかいない。雑司ぞうしも誰もいなかった。天御中の外れにあり、ガラネル達の宿泊しているダール専用の宿坊よりも遠かった。また、二人のダールが竜で出かけているのを確認している。


 「何を云っている!?」

 ぎょろ目の質問は当然だった。


 「ダール共を信用するな。特にあのガラネルは。デリナも、調整は成功しているが、完全ではない雰囲気だ。信用してはならん」


 「だからと云ってだな……」

 「まて」

 誰もいないはずだが、長老はさも周囲へ気を配り、声をひそめた。


 「デリナはホレイサンへ使いとして何度か向かわせているが、アチヤ=ナムメ殿下と何やら談合してるようだ」


 「ホレイサンと? ホレイサンと何を密談しているのだ。……いや、ホレイサンと密談して何がおかしいのか」


 「問題は、殿下よ」

 「ナムメ殿がどうした」

 「ディスケル皇太子と接触を」


 ぎょろ目がその眼をさらに見開く。見えてきた。ディスケル皇太子のところには、カンナが居る。もう、襲撃は明日だ。


 「……さすが、くるの皇子みこだな。狂っている。ここにきて祖国と聖地を裏切り、ディスケル皇太子側へつくとは。バスクスに通じていると」


 「その可能性が」

 「デリナが手引きを!?」

 「おそらく」

 ぎょろ目が大きく舌を打った。


 「だからダールなどを審神者にするのは反対だったのだ!!」

 ぎょろ目が話を蒸し返したので、長老も声がうわずる。


 「何度も云わせるな、黒竜は碧竜へきりゅうの正式な代理権を持っている。やつの天限儀を鍵とするしかなかったではないか! そして監視下に置くため、審神者に引き入れたのだ。それに、デリナは審神者の力をじっさいに持っていた……」


 「分かっている! そして我らにも欠員があった。……ここで云い争っても始まらぬ。悪かった」


 さすがにここに来て、ぎょろ目も反目し合っている場合ではないのを理解していた。

 「で、欺瞞情報とはなんだ。例の日付のことか」

 「左様」


 「我らにも欺瞞情報を流していたのか」

 「敵を欺くには味方からと云うからな」

 「確かに」

 意外と、ぎょろ目がさも当然といわんばかりに即答した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る