第694話 第2章 1-3 カンナ暗殺(の試み)
やがて、
「何も、ガラネル殿に現場でバスクスと直接やりあえと云うておるわけではござらぬ。指揮は復古神殿でも執ることはできましょう。我らにはもはや、大量のバグルスを同時に操る術はございませぬ」
この役立たずども……何のために今の世に存在しているのか。ガラネルは心の中で悪態をつき、
「わかったわ。後で、現場の確認を。それと、バグルスの培養施設も見せてちょうだい」
「それはご随意に」
「じゃ、今日はこの辺でいいのね? さすがに疲れたんだけど。ご自慢の温泉に入らせてもらうわ」
ガラネルが立ちかける。
「お待ちあれ」
三人の側の首領がまた甲高い声を発する。さすがにイラッときて、ガラネルの片目が引きつって小じわを刻んだ。殺気を押さえたのは、ここが聖地だからまだ理性が働いている。
「まだ、なにか!? 次の会合じゃダメなの!?」
「ガラネル殿のご意見を賜りたく……」
「意見!?」
仕方も無く、また席へ着く。とっと云え、と顔に書いてあったが、審神者どももとことん空気を読まない。他人との交渉など、ほとんどしたことがない人々なのだ。
「次の密議はもはや儀式の最終打ち合わせとなる。それでは間に合わぬ。ガラネル殿、実は、およそ三日後にはピ=パへ到達するディスケル皇太子とバスクスであるが、聖地に入ったとたんに襲撃し、暗殺を試みようかと思うておる」
「ハア!?」
さすがのガラネルも呆れた。アホか、こいつら。そんな暗殺部隊でカンナが倒せるのなら、とっくにやっている。今やダールをも凌駕するガリアの持ち主だ。そもそもウガマールやストゥーリアの暗殺者も、ことごとく返り討ちにしている。
「暗殺って……」
思わず笑ってしまう。
「できるもんなら、やってみれば?」
鼻で笑ってそう云わざるを得ないが、それが皮肉と通じない。わが意を得たりとばかりに、
「ほれみよ、ガラネル殿も賛成だ!」
四人側の長老がその覆面の隙間から見える目をいかにも迷惑そうにゆがめ、
「ガラネル殿、
さすがのガラネルも困惑。まさかこの程度の皮肉も通じないとは。三人側の若い首領、さらに声を高くしふんぞり返ってその大きな眼をむき、
「では、我らでそのようにさせてもらう。皇太子とバスクスの動向は押さえてある。なに、すぐにすむ」
仕方も無く、ガラネルが話を合わせる。
「勝算でもあるわけ?」
「なければやりませぬ。必勝……ではないが。やってみる価値はあろう。そなたらも、観戦武官を派遣しておくがよろしい。負けたとしても、ただでは負けん」
そこまで云われてはと、長老も話に乗った。
「なんぞ、新しいバグルスでも試すのか」
「いかにも」
「どのような」
「…………」
覆面の合間からぎょろ眼を覗かせて、三人側の首領はピタリと黙りこくったが、何か云われる前に、
「ここにきて
いかにもガラネルが興味なさげに口を曲げ、
「じゃ、ちょっとやってみて、報告してちょうだい。はいはい、これで今度こそ解散ってことでいい?」
「異議なし」
意外にあっさり一同がそう返事をし、めいめいに席を立ったので密儀は終了した。
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