第693話 第2章 1-2 密議

 ガラネルとヒチリ=キリアを上座に、きれいに四人と三人で向かい合って分かれた。七人の審神者さにわたちは、いまこの四人と三人の派閥に分かれているというわけだ。


 茶が運ばれ、ガラネルを迎えた長老が咳ばらいをし、


 「両ダール殿においてはお疲れのところたいへん申し訳ないが、時間がない。さっそく第一回目の密議を始めたい。異議ありや?」


 「異議なし」


 六人と両ダールが同時に答える。さっそく一回目の会議が始まった。まずは全体計画と各々の目的、役割の確認だが、既に紛糾した。


 「両ダールにおかれては、竜神降誕において黒竜か紫竜か、いずれでも異議なしや?」


 一人が尋ね、ガラネルが答える。

 「できれば紫竜を……と云ったところで、相手は神……どう出るか予測不能。異議なし」


 「ガラネル殿におかれては、その紫竜の秘儀によりヒチリ=キリア殿の魂魄は仮初とのこと。真に神代かみよの封印を開けることが可能か?」


 これはガラネルの前にヒチリ= キリアが答えた。

 「可能也」

 「まことに?」

 「くどい」

 「そののち、ヒチリ=キリア殿はどうなるのか?」

 「心配無用也。勝手に常世とこよへ戻る」


 ヒチリ=キリアがリネットの顔で自信満々にガラネルを見る。ガラネルもうなずく。

 「それより、碧竜のダールの代理を用意すると聴いていたが、いずこに?」

 ガラネルの声と眼が厳しく七人を刺した。

 「ここに」


 予想外の答えがし、審神者たちの視線を確認すると、一番奥に座っている大柄な女性の審神者ではないか。


 「まさか……」

 「既にこの者の黒き毒槍どくそう神鍵しんけんとして使用できるよう調整した。心配は無用」


 三人側の首領と思わしき例のぎょろ目の若者の甲高い声にガラネルが不快を隠し、いかにも満足げにうなずいた。


 「信」


 とりあえずそう云っておく。後で本当にデリナかどうか確認しなくてはならない。それもあるが、


 「降誕の儀の日取りは?」

 「二十と三日後で相違なし」

 「まことに?」

 ガラネルが念を押す。九百九十九年に一度だ。これを間違っては目も当てられぬ。


 「くどい」

 ガラネルがなかなか返事をしなかったので審神者たちも色めきだってきたが、


 「いまは信じるしかあるまいの」

 ヒチリ=キリアに云われ、これもとりあえず、


 「信」

 と云っておいた。


 「ガラネル殿におかれては、当日までにバスクスの迎撃体制の指揮を執っていただきたく」


 初めて聞く声だ。どの審神者が云ったのかもよくわからなかったが、

 「当日、私は降誕の儀に立ち会えぬと?」


 「そうは云っておらぬ。しかし当日どちらにせよカンナカームィの攻撃をとどめることがかなわぬ場合は……」


 降誕の儀そのものが御破算となる。やはり、すべてはカンナの存在がカギだ。

 「ウガマールの神官長と赤竜が、うまくやったもんよねえ」


 口調を変え、ガラネルは、さっそく密儀に飽きてきたかのようにふるまった。ヒチリ=キリアがリネットの顔で鋭い横目を投げかける。


 「それよ……赤竜、白竜、青竜など、もう千年以上も交信がない……何をどうしようと連中の関わりあいにならぬことのはずなのだが、なにゆえにここまで降誕儀を妨害せんとしておるのか」


 「いや、何処の竜神であろうと、原初神話の世界がごとく現世に神が顕現なさり、ダールなどは神の代理としてさらなる栄誉と権力を手に入れるはずなのに、何が不服というか、そこからして皆目分からぬ」


 審神者たちも、めいめい形式ばった応酬から自由討論のようになってくる。ガラネルはこれを引き出したかった。時間がないというのに、あのような一問一答では。


 「カンナの迎え撃ちの準備はするわ。でも、指揮は執れないわよ。こっちだって降誕の儀に際してすることがあるし、先代黄竜がうまく力を発揮するかしないかは、私の術にかかってると思ってちょうだい」


 ざわざわと審神者たちが聖地の言葉で囁きあう。ガラネルは、竜神が降誕しダールが神威しんいを全て握ったら、気色悪い審神者など一族ごと皆殺しにするつもりだ。

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