第662話 第3章 9-2 カンナ変貌
あわててスティッキィも腿へ仕込んでいる細身剣を抜くが、
「殿下を御護りして!!」
とカルンに云われ、皇太子の側から離れられない。カルンの読みは流石で、カンナを襲うと同時に何人かが皇太子へ迫る。
「ヌゥアア!」
これまでの戦いで最も緊張し、気合を入れた。裏カントル流の名にかけて、大脇差で迫る忍者どもを迎え撃つ。トリッキーな動きなら負けていない! 容赦なく裾をひるがえして土ぼこりを蹴り上げ目潰しとするや、ひるんだ一人へ後ろに回りこみつつ地面へ転がって足払いをかけた。同時に膝の裏を切り裂く!
装甲膝当の裏は布しかなく、急所だ。健を傷つけられると同時の足払いに、さしもの忍者が膝を折って崩れる。そこを立ち上がったスティッキィが、鎖帷子の隙間の首筋を突き刺した。
だが一人が、仲間がやられるのもかまわず皇太子へ刃を向ける!
そこへ横から肩当の体当たりをぶちかましたのは、正門を護っていたトァン=ルゥであった!
不意を突かれた忍者がまともにくらい、よろめいた。よろめきつつ左手で手裏剣を打つのが流石であったが、なんと皇太子が難なく避ける。
「無礼者めが!!」
大上段に大刀を振りかぶり、トァン=ルゥが体勢を立て直して硬直した忍者を脳天から腰まで唐竹割に倒した。
「ここは私とライバにまかせろ、スティッキィはカンナを護れ!」
たちまち近衛兵と忍者どもの乱戦となる。三神廟にも火と油が放たれ、轟々と燃えだした。跳び下りたカヤカとアイナが炎の陰からカンナと皇太子妃めがけて手裏剣と炸裂弾をお見舞いしたが、怒りのカルンが塀の上から
カルンの顔が絶望にひきつったが、煙が晴れると安堵に変わる。逆にカヤカの表情が面頬と覆面の下でゆがんだ。なにせ、皇太子妃だけはガリア……天限儀を遣っている。光に……光に伴う力場に護られ、炸裂弾ごときでは何ほども無かった。
カヤカが面頬の下で舌を打ち、アイナと目くばせして最後の戦いに挑む。すなわち、二人へ直接攻撃をする。
当然、カルンがそれを許すわけもない。塀からもんどり打って
と、その女忍者の首領ども、カヤカとアイナの眼が、突如として光りだした。
カルンはびっくりし、否でも瞠目する。
(なん……天限儀!?)
しかし皇太子妃以外のガリア……天限儀は封じられている。試しにすかさず自分も天限儀を出してみたが、出なかった。
すると、あれは……!?
覆面と面頬で、眼以外は表情も分からぬ。ただ、その眼がビカビカと光りだしたのだ。
これは、一種の催眠術だ。
フローテル族が生まれつきやたらと瞳が反射して相手に催眠効果をかける能力を持っている者がいるように、この二人も生まれつきの能力で相手に催眠をかける力を得ている。そのうえ、それを忍術として鍛えている。いま、カヤカとアイナは陽光を利用して眼が光っているように見せている。実際光っているが、このように電球がごとく光っているわけではない。ただ、カルンにはそのように見えている。そのように見える位置に最初から立っているのだ!
「う……」
カルンがうめいた。カヤカとアイナが何人にも見える。これがうわさに聞くホレイサン=スタルの秘術、分身の術か!?
しかも、身体が硬直してピクリとも動かない。頭がグラグラと揺れた。
アイナが一足跳びで近づき、手甲をつけた拳で思い切りカルンの顔を殴りつけた。
鼻血を噴き出して、カルンが横倒しになる。その顔を、アイナが草鞋で踏みつける。
「えらそうにふんぞり返っていた第二夫人も、形無しねえ」
アイナが侮蔑しきった眼を足の下へ向けた。
「遊ぶな。
時間の余裕はない。スティッキィやトァン=ルゥたちは配下の忍者が懸命に相手をしていた。次々に殺されている。が、もとよりカヤカとアイナも生きて帰るつもりはなかった。
アイナが片膝をつき大脇差を逆手に構えて左手を峰へ添え、細いカルンの首へつきたてた。
バアアアア!!
まるで雷雲の中に入ったようだった。
ドォゴォルゴゴゴゴオオォ……!!
雷鳴が空気を圧し、耳をつんざいた。
爵の中身がすべてカンナの中に入った。
この光が何なのか。爵へ注がれて何の力を付与されたのか。
それはいま、分かることではない。
分かるのはカンナが……カンナの肉体が変貌していることだけだった。
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