第661話 第3章 9-1 光の水
「よ……よいのですか、カヤカ様……」
「よいわけがあるまい。仕掛ける」
「ハッ」
云うが、忍者どもが動く。その時には、梯子で同じく高塀の唐屋根の上へあがってきたカルンが身軽な兵たちを引き連れ、駆けてきていた。地上ではトゥアン=ルゥが仁王立ちで三神廟の入り口を護る。そして上空には、
数人の忍者が死を覚悟でカルンを迎え討ち、残りがいっせいに神域である三神廟内へ飛び降りた。そして……カンナが稲妻に包まれ、天地をゆるがしたのだった。
9
忍者たちがそれぞれの楼閣門をいっせいに襲撃し、炸裂弾の轟音も轟いてきてカンナやスティッキィたちも
だが、空中へ
カンナが狼狽し、チラチラと皇太子やスティッキィを見やる。スティッキィとライバも、両殿下をただ見比べるばかりだ。
「ここは、待つほかはないのだ」
皇太子が平然と云い放った。
「し、しかしですね……」
ライバが思わず問いかける。皇太子はあくまで優雅に右手を上げ、掌で自らの妻を指した。
「天限儀を見よ。爵へ力が溜まってゆく。力の源が爵を満たしたとき、それをバスクスへ授ける。儀式はそれだけだ。今は、力が爵を満たすのを待つのだ。ただ、待つのだ」
二人が見やると、空中の爵へさらに空中から光の粒がちょろちょろと注がれている。
「……あれがそおなのお!?」
スティッキィが目をむいた。
「あの入れ物いっぱいになるまで、何刻かかるのよお!?」
「何刻かかろうとも、待つほかはないのだ。夫人らを信じよ」
スティッキィが唸りながら口を閉じる。何も手伝えないのが口惜しいし、もどかしい。
「待って、スティッキィ……あのゴブレットの大きさで、あの量じゃ、意外と早いかもよ」
ライバが冷静に観察する。
「あの光が、水やワインと同じくらいの時間で溜まると仮定すればね」
「水といっしょなわけないでしょお」
スティッキィの眉間が、ペンでも挟めるかというほどひそまる。
「いや……余も初めて目の当たりにする秘儀ではあるが……八半刻ほどであろう」
つまり十五分ほどといったところか。
スティッキィは奥歯をかみながら、じりじりと待った。ライバも空中の爵と水滴めいて爵へ注がれる光の粒を凝視する。眼がくらくらしてきて、眼を何度もこすった。
やがて、喧騒の音が少し止んできた。とたん、遠くから連続した爆音が雷鳴のように神山にこだまする。
ビクリとし、カンナやスティッキィが空を見上げた。
「ま、まだなんですか?」
思わず、カンナが不安げな声を出す。
「あと少しぞ」
爵は目線の上で空中に出現しているので、中は見えない。ただ、光が爵の中にキラキラちょろちょろと入ってゆくのが認識できるだけだ。
そして、さらに何度か爆音がする。しかも、近づいてきている……。
ついには、三神廟の門前ですさまじい爆音がし、楼閣の倒壊する音も響いてきた。
「……カルン様!」
スティッキィが居ても立っても居られず、そわそわする。
「カルンなら心配無用だ。己が主を心配せよ」
皇太子の厳しい声。スティッキィは武者震いし、両頬を叩いた。カンナを見つめつつ、ついにここまでやってくるであろうホレイサン=スタルの刺客に備える。
その時は、唐突に、来た。
「カンナカームィ、よいぞ、口を開けるがよい」
「は?」
皇太子妃がにっこりと笑い、カンナは目を丸くするのみだ。
「あーんせよ、あーん」
「あ、あーん?」
訳がわからず、とにかく大口を開ける。
そこへ、爵がゆっくりと傾いて、溜まりに溜まった光の水がカンナの口へ少しづつ注がれる。
カンナはびっくりして、ただ狼狽えた。
「こ、こえ、こえは、こえはなん……」
だが液体ではなく、
そこへいっせいに襲い来る忍者軍団!
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