第660話 第3章 8-6 封神の秘力

 廟全体の最深部である三神廟前の広場に、ここまで森の中を走ってきて隙を見て一気に唐塀を乗り越えてきた当初よりここを襲撃する部隊と、ルァン、エルシュヴィ、そしてトゥアン=ルゥ襲撃部隊の残存隊が三神廟正面楼閣門を乗りこえて同時に踊りかかる。


 その数は二十を超えている。

 こちらはカルンを含めて十五。数のうえではやや不利か。


 まず忍者どもが唐屋根の上から炸裂弾を投げこんだ。その数、七つ。残存部隊の炸裂弾は使い果たしているので、新規部隊の爆弾である。忍者どもは一人二つから三つの炸裂弾を所持していた。


 為す術無くアトギリス-ハーンウルムの近衛兵が飛来する爆弾を見つめる。紙で作られた球だ。既に導火線へ火が点いている。


 「カルン様!」


 屈強な若い兵士がカルンを抱えて伏せようとしたが、それより早くカルンがその袖の内より大きな投網を出して空中へ向けて網を広げる。そして兵士たちが唖然とする練達の業前わざまえで飛んでくる炸裂弾を全て網でからめとり、そのまま振り回して遠心力を利用し正面門の上めがけて飛ばしつけた。


 驚いたのは残存部隊だ。


 唐屋根の上から一斉に散る。が、七つもの爆弾が連続して爆発し、一人が巻きこまれてぶっとんだ。そのまま頭から地面へ落ち、首が変な方向へ曲がったまま動かなくなる。


 驚いたのは、階段をちょうど上がりきっていざ門へ突入しようとしたトゥアン=ルゥ達もだった。唐屋根が爆発で半壊し、そのまま門ごと崩れ落ちる。扉も大きな音を立てて倒れてしまい、土埃の向こうに向こう側が見えた。


 「カ、カルン様!!」

 トゥアン=ルゥが右手をあげた。カルンも重そうな袖をあげる。


 そこへ忍者軍団が最後の攻撃をしかけた。唐塀の上と地面から毒手裏剣の乱れ打ち、それから短矢、縄の攻撃! 片やカルンたちも本来草原で使う短矢、なにより竜騎銃! 地上兵では、宮廷近衛兵のみに常備されている。バアン! ガーン! 銃声がし、忍者がバタバタと倒れた。そして……。


 「トゥアン=ルゥ様、あれを!」


 カンチュルクの兵が上空を指さす。二頭の紫月竜しげつりゅうが上空から急降下し、塀の上の忍者をひっさらった。


 「ぬう……」


 襲撃部隊の組頭がさすがにうなった。どこに潜ませていたのか。事前の探索でも、まるで気がつかなかった。さすがの忍者たちも竜には手も足も出ないし、たとえガリア遣いであったとしてもここはガリアが遣えない。


 残存部隊の組頭と素早く目配せし、作戦を変える。


 また、そのとき、折しも再び遠くから甲高い鳥の声のような音が響いた。忍者たちが素早くそれへ耳を傾ける。兵士たちは次の攻撃に身構えていたが、カルンが叫んだ。


 「……いかん、早く!」


 自らも動き、ひょうという手裏剣めいた鋼鉄のやじりのようなもが先端に結びつけられた縄を飛ばす。縄鏢じょうひょうだ。塀の上の忍者の一人の足を狙ったが、敵も然る者、手裏剣を投げ、空中で命中させる。


 「チィ!」


 カルンが舌を打ったその時には、再び炸裂弾が破裂した。しかし、これは煙幕だ。白煙がもうもうとたちこめ、しかも催涙効果があった。みな咳きこみ、目を押さえる。


 その隙に、忍者どもはみな消えてしまっていた。

 「逃すな! 中へ、廟の中へ! 両殿下をお護りせよ!!」


 涙目で咳きこみながらもカルンが叫ぶ。階段を上りきったトゥアン=ルゥが煙をかきわけ、真っ先に吶喊とっかんした。


 とたん、三神廟を囲む楼閣や唐塀の屋根のいたるところから黒煙と火の手が上がった。それにはさすがのカルンも目を剥いて驚いた。


 「カヤカ様!」

 二人の組頭が屋根の上でカヤカとアイナへ片膝をつく。


 「思いのほか手練れ揃いにて、時間をさほど稼げませんでした。もうしわけもござりませぬ!」


 ホレイサン=スタルの言葉で、組頭の一人が云う。

 「なに、火をかける時間は取れた。気にするに及ばす」

 隣にアイナを控えさせたカヤカが面頬の下より声を出す。組頭二人がこうべを垂れた。

 「見よ。伝達の儀は佳境だぞ」


 カヤカ達の眼下で、ついにカンナへ封神の秘力が授けられようとしていた。皇太子妃ディス=ドゥア=ファンのガリア……天限儀「天可てんか七眼なながん竜文りゅうもん青銅爵せいどうしゃく」が光り輝き、カンナの顔の前で浮いている。


 忍者たちも、瞠目した。

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