第659話 第3章 8-5 神廟への死闘

 もがく二人へ、次は炸裂弾が次々と投げつけられた。

 バウ、バウ、バアッ……!!


 白煙が連続して立ち上り、その間に忍者たちは倒した守備兵から奪った槍を手にしている。組頭が右手を上げ、煙が流れるのを待つ。すぐに白煙は風に流れ、衣服や皮膚も破れ、焼け焦げた二人が血まみれとなり折り重なって呻くのみだった。


 組頭が声も無く右手を下ろし、五人の忍者がいっせいに二人へ槍を突き立てた。


 それも一度ではなく、引き抜いては突き刺し、突き刺しては引き抜き……執拗に攻撃して確実に息の根を止めたのだった。


 忍者たちには、殺意すらない。

 ただ、命じられるがままである。



 集中した炸裂音を最後に喧騒が無くなったことで、トァン=ルゥはルァンたちの全滅を悟った。一瞬目をつむり瞑目すると、さらに鋭い光をたたえて括目する。生き残った忍者部隊は、その眼光にひるんで後退った。第三の楼閣門を護るトァン=ルゥとカンチュルクの精鋭は、奮戦のすえ襲撃部隊をほぼ壊滅させていた。


 なんといっても、トァン=ルゥの力が大きい。アーリー直伝の戦闘力は、男でも振り回すのに骨が折れる長巻ながまきにも似た超大な刀を自由自在に振り回し、一人で五人もの忍者を叩きのめしていた。残る忍者どもは三人で、組頭も既に討たれていた。一方、カンチュルク防衛隊は一人やられただけで、まだ九人残っている。


 そこへ、なにやら鳥の声のような笛の音が響く。


 たちまち三人の忍者たち、退却へ移った。侵入してきた際に使用した鉤縄へ脱兎がごとく走るや、非人間的な動きで「あっ」という間に上ってしまう。慌てて何人かの兵士が矢をつがえて狙ったが、焦って射たのでまったく間に合わなかった。空しく壁へ当たって跳ね返る。忍者どもめ、いま自分が登った縄を素早く引き上げるのも忘れない。そして唐塀の屋根を伝って、三神廟ではなくルァン達のいた第二門前へ向かった。


 「トゥアン=ルゥ様!」


 兵に云われトゥアン=ルゥ、大刀を肩へ担ぎながら慎重に第二門を凝視する。向こう側から板で打ち付けられている。後ろの第三門も、さきほど戦いながら二人の忍者が目にもとまらぬ速さで板を釘づけにしていた。


 一同、いまにも門を突き破って忍者どもが合流して襲ってくると思い、固唾をのんで身構えた。大した時間ではなかったが、何刻にも思えた。


 が、いっこうに気配がない。

 「……?」

 トゥアン=ルゥ、流石に只者ではない。ふと天を見上げ、

 「うえだ!」


 と叫んだ。兵どもが同じく空を見上げる。澄んだ青空に、楼閣門の唐屋根から屋根へいつの間にやら縄梯子が伝っており、いま最後の忍者が走って渡っているところだった。


 「い、いつの間に!」

 兵が矢をつがえるが、まったく間に合わない。獣のような素早さだ。


 あわてて兵士たちが第三門へ殺到するところへ、土産と忍者たちが炸裂弾を雨あられと楼閣の上から落とした。


 何人かの兵がふっとび、血まみれで地面へ転がる。

 その隙に忍者どもは楼閣よりとび下り、カルンのいる三神廟の正門前広場へ向かった。


 「……カルン様!!」

 トゥアン=ルゥが怒りに顔をゆがませ、門へ走る。


 と、行ってしまった忍者が一人残っていて、一回り大きな特性炸裂弾をトゥアン=ルゥめがけて投げつけた。


 だがトゥアン=ルゥ、その白煙をふく炸裂弾を長刀の峰で叩き打った!

 すごい速度で炸裂弾が門へ飛び、そのまま爆発する!


 グバアッ!! 門全体が揺れ、もうもうと煙が上がった。そして、蝶番が破壊された大きな両開きの門が、ゆっくりと倒れた。


 門の向こうでは、階段を走る途中の忍者が何人が驚愕に固まりつき、振り返って明らかに動揺している。


 「……ゆくぞ!!」

 トゥアン=ルゥが先陣を切って走り、カルンの助太刀へ向かう。



 カルン、神廟内で儀式が始まったのを感じ、気をひきしめて守護に徹する。同時に戦闘の物音が山の下から聴こえてき、近衛兵たちも身構える。戦い自体は激しいが小規模で、そんな何刻も続くようなものではない。半刻もせぬうちに、物音が静かになった。


 「……来るわよ!」

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