第652話 第3章 7-2 池の中
だが感傷に浸ってる暇は無い。
「で、次は?」
「次は……」
二人は傍目から見れば、姫が下女と詳細に何かを打ち合わせているか、何やら談笑しているように見えるだろう。しかし、内実は、周到で綿密な確認だ。そもそも、ライバはベウリーと密かに何度か話をしている際に、ベウリーがどこからか入手した後宮の詳細図を託されている。抜け道や、天井裏、床下まですべて載っている。本来であれば、所持が発覚したら問答無用で首を
しかもそれを、スティッキィは惜しげも躊躇も無くカルンへ渡した。すると、カルンでも似たような絵図を持っていたので二度驚いた。
「みんな、考えることは同じなのねえ」
と、いうことだった。しかし、図面はベウリーのほうが何倍も詳細で、カルンたちも驚嘆した。
トァン=ルゥへも写しが渡り、アトギリス=ハーンウルムとカンチュルクでネズミも漏らさぬ対策をしている。とうぜん、逐一妃殿下へ裁可をとっている。ダオマー節の主催は、皇太子妃なのである。
立場上、皇太子妃はおろか両夫人とも直接は会話はできないので、連絡は必然、ライバが向こうの女官や下女と密かに行うことになる。スティッキィと話を終えたライバは状況確認のため、諸用を足すふりをしてあらかじめ定められた連絡場所の一つへ向かった。
それを心配そうにカンナが見送る。
「だいじょうぶよお、カンナちゃん。ライバを信じましょう」
「わたしも、何かできることないかな」
「ガリアが遣えないいま、カンナちゃんにできることは、あたしの側から離れないことよ」
「う、うん……」
カンナは緊張で息をつき、眼をつむった。じっさい、
ライバは次の配膳の確認のついでに、指定した場所で素早くカルン、トゥァン=ルゥ配下の者の報告を受けた。そこは下女たちの控室へ向かう前の廊下の隅で、下女同士がちょっと立ち話をするのは不自然ではない。
「どうだ?」
「天井裏で二人、排除しました。いまも見張りを」
「隠し通路でも三か所で四人、排除済みです」
既に六人、暗殺者を倒したのだ。
「ちょっとうまく行きすぎな感もあるけど……ほかに知らない隠れ場所があるかもしれないから、充分気を付けて。囮の可能性も」
「は、はい……」
行方の知れぬホレイサン=スタルの不審者はアイナとカヤカを合わせても十人ほどのはずなので、短時間に半数も倒した大戦果にライバが喜ぶと思っていた下女たちは、よけいに気を引き締めたので驚いた。が、ライバもまた凄腕の暗殺者であることを知らぬ。ライバは、自分だったらどう襲うかをひたすら考えている。
素早く戻り、スティッキィへ報告する。ちょうど場は大いに盛り上がり、歓声や踊り、
「いいわ。でもライバの云う通り、思いもよらない場所から狙ってくる可能性もあるわあ」
「わかってる。庭もなめさせておくから」
「お願い」
「なめさせる」とはチェックさせる、というほどの意味である。すかさず、次は厠へ行くふりをして、所定の場所を通る。すると、カルンとトアン=ルゥの下女が後をつける。そして、先に行って待っていたライバと建物の陰で打ち合わせをする。
「庭をぜんぶ点検するんだ」
「庭は、宴の始まる前に点検しております」
「再点検を。縁の下から庭木や岩の陰……池の中まで」
「池の中までですか?」
「気づかれないように」
「分かりました」
全てライバへ従うように厳命されている下女たちは、それをそのまま「御庭番」へ伝える。警護女官たちは全員が身元から再調査され、怪しいものは排除され、体制を一新されていた。なにせ、警護隊長自らが間者だったのだから、その衝撃は大きい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます