第651話 第3章 7-1 ダオマー節
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ダオマー節とは古来より代々の竜王朝に続く節句の一つで、菖蒲を飾り
儀式にあっては皇太子妃が祭祀を務め、聖地と帝家に伝わる儀式を滞り無く行う。儀式自体は後宮のさらに奥にある神殿において執り行われ、高位の聖職者がそれを補佐する。列席できるのは、皇太子と夫人、皇帝の勅使までである。姫たちは後宮の控えの間で儀式が終わるのを待たなくてはならない。どのような祭祀が行われているのか……それは、秘儀とされて関係者以外には分からない。儀式のあとは、竜神へ捧げた供物を下げてみなで食べる。
先日と同じ宴会場に、先日と同じ席順で一同が並ぶ。スティッキィも、右列十番と先日の披露宴と同じ席……と思ったが、なんと右列九番だった。
(そうか……一人、どっか行っちゃったものね……)
思いつつ、隣を見て身を竦ませる。先日とちがう姫がいる。向こうも、驚きと不安に混じった顔でスティッキィを見つめ、会釈をした。
と、いうことはつまり、ホレイサン=スタルの間者だったと思わしきアイナは、披露宴のときからすぐ隣にいたのだ!
スティッキィ、驚愕を通り越して恐怖せざるを得ぬ。
(逃げたあいつが隣のやつだったなんて……ぜんっぜん、覚えてない……!!)
お披露目のときの料理に、記憶を曖昧にする薬でも一服盛られたのではないかという気すらする。
(カンナちゃんに食べさせなくてよかったああああ……!!)
スティッキィ、冷や汗をかいた。
(きっと観察してて、カンナちゃんが食べようとしなかったから、毒を盛らなかったんだわ……あ、危な……!!)
いま、眼前におかれている料理ですら、食べる気が失せる。しかし、これは供物の下がりものであり、食べなくてはならない。
肉の煮こみに、植物の葉か皮で包んで蒸した味付の米、魚のスープ、魚の揚げ物……などであった。肉は豚肉で、蒸した米は粽だ。魚は鯉だった。またカンナに食べさせてもらったが、みな甘辛く、米はやたらと粘ついて、スティッキィにとっては格別うまいものではなかった。量が少なかったのが幸いだ。この供物をみなで食べるところまでが儀式なのだろう。証拠に、その最初の膳が下げられると、次々に先日の披露宴よりも豪華な料理が運ばれてくる。酒も多かったし、この宴は披露宴と異なり無礼講に近いもので、格式張っておらず、みな気軽に立って酌をしあい。次々に歌ったり踊ったりしはじめる。さすがに両殿下へ気軽には話しかけないが、二人の前でもふつうに楽しそうに飲んでいる。第二、第三両夫人も、得意の舞を舞い始めた。
場が和み、笑い声と話し声が響く。
「ライバ……ライバ……」
スティッキィがさりげなく後ろへ控えているライバを呼んだ。
「なんだ? スティッキィ」
「手筈は?」
「ガリアを出してみろよ……」
スティッキィ、掌の内へこっそり
「やっぱりだめだったの?」
「そうだけど、ちがう」
「どういうこと?」
「それが……どうやら、もうどうやってこの城全体でガリアを封じているのか、よく分からなくなってるみたいで……」
「なるほど。やり方が分からないから、解除の仕方も分からないというわけね」
スティッキィがカルンへ相談したのは、この
「両殿下が、門前払いしないで真剣に調査してくれたのね……」
スティッキィは上座で楽しげに微笑んでトァン=ルゥの豪壮な舞を観ている皇太子と皇太子妃を見やり、有り難さに涙が出てきた。
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