第567話 第3章 3-4 殺し稽古
「……ウウウウウ!」
唸り声が自然にあふれる。風が静電気を呼び、カンナほどではないが雷が発生する。青白い、細く火花の弾ける独特の
突風に乗った風と嵐の竜神が、轟音と共に密林の上空を駆ける。この音を聞いた原住民は既に「魔神の歌」として、恐れおののくようになった。遥か上空から見おろすと、ウガマールとアテォレ神殿は目と鼻の先に見える。周囲にはいくつかの村というか集落があって、採取、狩猟、漁労でほぼ自給自足の生活をしている。中には、トトモスまで獲物を売りにゆく者もいる。
レラは猛禽めいた視線により、その日の犠牲を見出し、翼をたたんだ隼となり、真っ逆さまに落ちる。グオオーン! という独特の音が迫った時点で、もう、その名もない古ウガマール人と南部王国原住民の混血の集落は恐慌状態だった。まず猛烈な風が吹き下ろして、掘っ立て小屋に毛の生えたような集落の建物はみな柱から倒れて吹き飛ばされる。老人や幼年の者も、ころころと転がってしまう。一瞬、豪風が収まるとそこには、ジッ、ジッと青白く細かな火花状の稲妻を散らし、眼がスカイブルーに光るレラがいる。
そして、その右手には漆黒の長刀が握られている。
カンナの黒剣と同じく、光の通過する角度によっては半透明に光る漆黒の片刃刀で、ゆったりとした反りがある。切っ先は鋭く、刃紋が青白く波となってぼんやりと浮いていた。剣身も鍔も柄も一体化したこの長刀こそ、レラのガリア「
その力を開放したならば、こんな集落など一撃で消し飛ぶ。カンナの力がそうであるように。
しかしレラは、そうはしない。これは、文字通りキギノに「叩き」こまれた剣技を実践し、殺意を切れ味に変える「殺し稽古」なのだ!
「キィアアアア!」
レラが金切声の気合をあげ、黒刀を両手持ちに八相へ構え、膝をやや落とし、眼をむいて走る。ブァア! 風が踊って、村人たちは足がよろめく。竜をバターのように切り裂くガリアだが、人間には普通の刃物でしかない。だが、この刀は人間をも真っ二つにする鋭さを持っていた。
右の袈裟懸けに恐怖にひきつる男性を切り裂くと、心臓ごと大動脈を裂かれた胸から血液が噴き出てばったりと倒れ伏す。次は、その男性の母親だろうか、すぐ側で祈るしぐさの老婆を水平片手平突きから串刺し。引き抜きざま老婆を蹴り倒し、レラは小走りから水平斬りに構え、尻もちの、盲いた老爺の首を見事に
もう、悲鳴も轟々という強風の音で聞こえない。
恐怖と恐慌で棒立ちとなっている数十人の人々は、レラによって、ものの四半刻も経たぬ間に皆殺しにされた。
これは、ただの虐殺である。
剣技の上達を望むものではなく、レラに殺しの感覚を覚えさせるためのものだ。虫を苦も無くひねりつぶし、犬猫を
「フーッ、フーッ」
息切れではなく、興奮の動悸でレラは大きく肩で息を吸った。キギノに云わせると、これをまったく波紋ひとつたたない水面がごとき境地でおこなえると、
「まず、よし……」
という程度だそうなので、レラはまだまだというか、初心者以下であろう。しかし、もうアートではないが時間切れだった。この興奮でカンナに当たるしかない。
ヒュゥ……と、風が踊る。その風が瓦礫の木っ端に隠れていた少女の、その木っ端を吹き飛ばした。偶然ではない。ガリアが、獲物を求めている。まだ、血を吸い足りない。風紋黒玻璃重波刀が。
レラと同じ年頃の少女が恐怖で引きつって、腰の抜けた姿勢のままレラを凝視した。その白漆喰色のほぼ真っ白い顔に、ウガマールの薄茶白の木綿の男装に、べっとりと血しぶきがこびりついている。ガクガクと震えて、少女は僅かでも離れようと
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