第371話 第3章 4-7 地底の死闘

 と、雷紋らいもん黒曜こくよう共鳴剣きょうめいけんが、急激に振動をカンナへ伝えた。


 バ、バ、バババ! 同時に電光が激しく明滅! ストロボめいて、突如として闇より出現したシードリィの動きがストップモーションに見える。その連続した蹴り技を、黒剣の極低音による音響の圧が弾いた。まともに音塊をくらった鍾乳石が、砕け散る。


 カンナもたまらず反撃した。音響と稲妻の塊を避けて、シードリィが間合いをとった。

 「よくも、南方へ来てくれたな、我らの計略を察していたと!?」

 距離をとって構えなおしたシードリィが、その目を青白く反射させ、うそぶいた。


 偶然に決まってるだろ! カンナは心の中で叫びつつ、黒剣を振りかざす。今度は、逃がさない。


 シードリィも右腕の仇と云わんばかりに気合を入れ、迎え撃つ。まして、いまはホルポスがいる。カンナをホルポスへ近づけるわけにはゆかない!


 カンナめがけ、左手より分子振動波が放たれる。それへ、十枚ほどの燃える呪符がまとわりついて、青白い鬼火が揺れて霧散した。さらにまとわりつく。


 シードリィがいやらしい鬼火を粉砕しつつ、片腕なのを恨めし気にカンナをみやり、それから一歩引いて間合いをあけた。左手を突き出す構えのまま、二人を牽制する。


 「きのうのネズミじゃないか。こんなところに隠れていたのか」

 パオン=ミを睨み、素直に怒りで牙をむいた。

 「知っておるか? スズメは空を飛ぶドブネズミというほど、穢れておるのだぞ」

 「?」

 カンナも、思わずパオン=ミを見やった。意味が通じない。


 とたん、呪符が舞う。四角い札が姿を変え、そのスズメめいた鳥の形へ変化するや、燃え上がって炎の小鳥となった。それが弧を描いて空間を矢のように飛び、撹乱かくらんしながらシードリィへ迫った!


 「なん……!?」

 シードィリの意識が散った。好機! それを、今度はカンナが援護する。

 「エエエエイ!」


 横殴りに得意の衝撃波を見舞い、まともに食らったシードリィは爆音とともに真後ろに吹っ飛んで、洞穴の壁へ叩きつけられた。そこを、火の鳥が襲撃する。五羽の燃える小鳥がそのままシードリィの腹めがけてつっこんで、次々に爆発した。


 轟音が空間を幾重にも反射し、地下空間が揺れて鍾乳石は崩れ、ばらばらと落ちた。


 爆煙が散り、うなだれるシードリィが現れたが、カンナもパオン=ミも倒したとは思わなかった。うかつに寄ってはあの振動攻撃を受ける。


 シードリィの足元が、怒りの沸騰で煮えたぎる。岩石が融け、再び溶岩となって暗闇に赤く光った。カンナとパオン=ミが身構える。とたん、その溶岩が川となって沸騰しながら二人へ迫った!


 二人がほぼ同時に離れ、溶岩流を避ける。避けながら、カンナは再び音響弾を、パオン=ミは呪符を直接叩きつけた。


 シードリィはその両方が到達する前に驚異的な跳躍をもって洞穴の天井まではね上がり、そこからまた一瞬で暗闇へ消えた。シードリィのいた場所を音響圧と火炎呪符が襲った時に


 「消えおったぞ!」


 パオン=ミは再び白く燃える照明符を両手より八つ出した。そして続けざまにもう八つ。煌々こうこうと照りつける照明弾に、洞穴内が昼めいて明るくなり、カンナは目を細めた。


 しかし、シードリィはいない。


 カンナ、黒剣に集中。共鳴を探す。右手に持った雷紋黒曜共鳴剣をまるでアンテナのようにゆっくりと振りながら掲げ、細い電光がスパークする。


 その電流が流れているのを、パオン=ミも看破した。

 「そこ!」

 二人同時に叫んだ。


 カンナが必殺の球電を放つ。そしてパオン=ミは、二枚の呪符を重ね合わせて鳩ほどの大きさの火の鳥を作ると、同時に放った。


 連続して爆発がおき、洞穴を揺るがした。二人とも自らの音と爆風、衝撃波で耳や内臓をやられぬよう、カンナは音圧、パオン=ミは呪符を重ねて火の盾を作り、それぞれガリアの力で身を護った。さらに、天井から大岩がはがれ落ちてくる。


 「やっぱり、こういうのは危ない……」

 カンナはシードリィより、そちらのほうが恐怖だった。

 「奴はどこじゃ?」

 パオン=ミが緊迫する。またしても、いない! あの速度の攻撃から逃れたというのか。


 瞬間、黒剣が自動で動いた。バーン! 破裂音がしてカンナがふっとぶ。同じく吹き飛ばされたシードリィが、両足と片手を地面へつける低い姿勢で滑りながら体勢を立て直した。振動波で、接地している部分が煮える。

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