第304話 湯の感触

 そして、さっぱりとしたところで湯に浸かると、天国にでも来たかに見える至福の顔つきで、脱力する。


 レブラッシュは呆れて、館へ戻った。

 「もういいわよお。あたし一人で入るから!」


 脱衣場は夏みたいに暑く、マレッティは汗をぬぐって、厚着の衣服を脱ぎだした。脱ぎながら、


 「そのかわり……あたしはここでアーリーやカンナちゃんと……住むから。支配人にそう云われたから」


 「うっそよお!」

 「うそじゃないわよお」

 「いやよお。せっかく……」

 「お風呂のない部屋なんかに住めますかってえの! くさいのよお」

 「くさくなんかないわよお!」

 「鼻がバカになってるのよお」

 「うそ云いなさあい」

 「いいわよ、もう。衛生観念のない子はあっち行って!」


 全裸のマレッティが犬でも追い払うかのように、手を振る。スティッキィはカチンときて、服を脱ぎだした。


 「あら、無理しなくてもいいのよお?」

 「無理なんかしてないわよお!」


 そう云いつつ、スティッキィはとうぜんサラティス式風呂など生まれて初めてで、その蒸れた熱気に戸惑うばかりだ。マレッティは初めてカルマの風呂に入ったカンナを思い出し、可笑しかった。


 「まず身体を洗ってねえ。頭も洗うのよお。ウガマールのオイルもあれば髪の手入れもできるんだけど……いまは贅沢は云えないし、まあいいわあ。あんた、全身を石鹸で洗ったことなんてないでしょお!?」


 「なによ、えらそうに……あんただってここを出るまでなかったくせに」

 「人は学んで成長するのよ」

 そう云って、頭からちょうどよい湯をかけるも、

 「アィッチィイ!」


 スティッキィは子供みたいに湯から逃げた。大して熱くもないのだが、初めての経験で驚いたのだ。


 「なあにすんのよお!」

 「あっつくなんかないわよお!」

 そこからは問答無用でマレッティは妹を揉み洗いした。

 そして湯舟へ放りこむ。それも熱い! 慌てて出ようとするも、

 「風呂では静かにしろ……」


 瞑想状態のアーリーが低い声を発したので、スティッキィはびくついてそのまま湯へ身体を沈めた。


 そのまま、茹でられているような気分だったスティッキィだったが、マレッティも髪と身体を洗って入ってくるころには、なんともいえない心地よさに恍惚としていた。


 満足げにマレッティ、

 「どお? いいもんでしょ?」

 「……まあねえ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る