第279話 地下通路

 「そんなに……? でも、本当のことを聴いたら、むしろ損害賠償を請求してやりたいくらいだわ」


 「これからするのよ。……あいつの命で補ってもらう」


 スティッキィの声は、復讐に少し震えていた。いや、マレッティを得て、これで復讐できるという喜びにも似た震えだった。


 マレッティは、まだなにか複雑な心境で、口ではそう云ったものの、心が萎えていた。


 二人はガイアゲン本部の裏口につくと、通り向かいの小さな小間物屋に入った。ここの地下から、秘密通路を通ってガイアゲンの地下室に到る。


 小間物屋のおやじも、メストの一員だった。もっとも暗殺者ではなく、ガイアゲン配下の暗殺者組織の事務員(連絡係)というべきものだ。いつものフード姿が入ってきたので、スティッキィだと思った背中の曲がったおやじ、それが二人いるのでいぶかしがった。


 「スティッキィか?」

 「そおよお」


 スティッキィがまずフードをとる。そしてマレッティもとった。まったく同じ顔が出てきたので、「そいつはだれだ?」 と云おうとしたおやじ、息をのんで固まった。


 「お姉ちゃんのマレッティよお」

 「……どうも」

 マレッティが目礼した。おやじは、まだ同じ表情で固まっている。

 「支配人につないでちょうだい。依頼はこの通り果たしたって。……聴いてるのお?」

 おやじが動いた。


 「あ、ああ……聴いてる……支配人の依頼とは?」

 「お姉ちゃんをメストに加えるのよお」

 「と、すると、こちらもガリア遣いなのか?」

 「サラティスでバスクをやってるのよお。所属は、あのカルマなんだからあ」

 「カルマだって!?」

 目を見開いて、おやじがマレッティを見た。

 「知ってるのお?」

 これは、マレッティだ。

 まるで同じ声と話し方なので、おやじはどうも調子が出ない。


 「あ、ああ……。ま、その……話は、な……。竜の世界から来た凄腕のダールが、おかしらなんだって?」


 「まあね……」

 「無駄話はいいからあ。早くつないでよお」

 「ああ、そうだな……」


 おやじが店の奥へ消え、しばらくして戻ってきた。無言で顎をしゃくる。二人は親父について行き、店の奥の地下通路へ到る扉に案内された。あとは、スティッキィだけで行ける。


 おやじは二人を見送って、胸を押さえた。まだ、している。おやじはスティッキィの強さと残忍さを知っていたから、それが二人に増えたと思ったら、どうにも動悸が納まらないのだった。


 小さな蝋燭だけの地下通路を進み、ガイアゲン商会本部の敷地へ入って、行き止まりの扉を開けた。屈強なガリア遣いの女衛視がいて、二人を案内する。商会の建物の地下から、階段を上がってとある部屋に入ったのでスティッキィは驚いた。いつも、支配人と合うのは秘密の地下室なのだ。


 「どこへ行くのお?」

 思わず衛視に聴くが、衛視は答えなかった。

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