第260話 決着~マレッティ放浪
獣のような唸り声を上げてアーリーが大剣を捻りこんで大鎌をひっかけ、いったん下げてから
斬竜剣を振りかぶったアーリーが、そのまま水平に剣を落とし、そこから胴払いにデクリュースへたたきつける。猪突竜ですら真っ二つにする斬撃は、デクリュースの細い胴体など木っ端みたいに切断した。
「げぇあ、はああ……!!」
小枝よりもたやすく両断されて血と臓物をぶちまけながら転がり、燃え上がるデクリュースを確認するまでもなく、クレイスはガリアも消して踵を返そうとしたが脚が動かなかった。パン、と太腿を叩き、一気に逃げる。も、その時には胃のあたりの体の中に絶望的な熱が出現して、クレイスは半泣きに顔を歪めると、悲鳴ではなくズボァ! という炎の吹き上がる音を口から発して、上半身が半分爆発し、花火めいて火にくるまれた。そのまま立って火を吹きあげていたが、すぐに膝から崩れる。もう、骨まで燃えており、めらめらと石炭のように燃える赤い頭蓋骨が、首からもげて転がった。
宵闇の中に炎と雪とが入り混じる幻想的な光景に、ドリガは放心してどこを見るともなく尻餅をついていた。アーリーが近づいて炎の大剣を向けると、初めて気が付いて、たちまち涙をこぼしながら眼をつむり、顔をくしゃくしゃにしてひたすら手を合わせて祈った。ここにきて命乞いである。
「……」
アーリーは右手を大きく振ってガリアをひっこめると、無言で、何もなかったような静けさで歩き出した。もう、ドリガの心が折れてガリアを遣えなくなったと看破したのだった。
しかし……メストの秘密を知っているドリガが、暗殺に失敗したうえ、ガリアが遣えなくなりましたからといって素直に引退できる世界ではあるまい。アーリーが手を下さずとも、いずれ消されるだろう。
事実、それから二日後、袋に入れた楽器と小荷物、それにこれまでに稼いだ大金を持ったまま、鋭い刃物でのど元を切り裂かれたドリガの死体が、路地裏で発見される。冬の冷気に、半分凍りついていた。スターラから脱出する直前のことだったという。
5
さて、マレッティはアーリーが四つ辻で敵と戦っていたころいったんホテルへ戻ったが、朝方にまた出かけて行った。そしてその日は帰らなかった。常にフードを深くかぶり、防寒とみせかけて巧妙に顔を隠していた。
いったん夜にホテルへ戻ったのは、五年……いや、もう七年だ、七年前の記憶がすでに薄らいでおり、自分の実家のあった場所がわからなかったからである。
これは、意図的にと、無意識に記憶を消去しているからだ。それほどの事件があって、マレッティはこの街を捨てた。
それなのに、どうして彼女は再び実家を……正確には実家の跡地を探しているのか。
それはマレッティ自身にも分らなかった。この機会を利用してのけじめなのだと思った。
あるいは、自分のこのガリアの……
小さな路地裏の食堂で小腹を満たしたときも、隅の席でフードを取らずに黙々とそして素早く黒パンと薄いレンズ豆の粗末なスープをかっこんだ。よけい目立つと思われるが、意外にそういうものは多い。いや、そういうものが多い場所で食事をとった。ここは工業区のはずれの、貧民窟との境目にある、末端労働者向けの場末激安食堂だ。半分施し飯屋といってもいい。
マレッティにとっては、懐かしくもゲロみたいな味だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます