第259話 影縫い

 そこへ、銀鱗粉ぎんりんぷんが吹きつけてきた。ごっそりとアーリーの周囲の炎を削りとってゆく。デクリュースの大鎌の舞が、さらに動きを大きくする。鋭い風に乗って、鱗粉がアーリーの頬をかすめた。痛みが走り、血が噴き出た。風ではなく、この銀の粉が物体や……炎までも削り取るのだろう。そういうガリアだ!


 アーリーは歯を食いしばり、強引に眼前の万力へ大剣を押しつけた。ガ、ギッ……と、斬竜剣の刃が食いこむ。炎が吹き上がって、熱波がクレイスを襲う。クレイスの炎もさらに音を立てて吹きつけて、ペンチで斬竜剣をひねり、押し返した。


 その硬直状態に、ドリガが背後から躍りかかる。青い毛糸の先に太く巨大な縫い針がある。まさかこれで、アーリーを刺そうというのか。


 「とおうああッ!」


 ドリガ、気合を入れ、赤々と自らのガリアの炎に照らされるアーリーの長い影に、縫い針めいて太針と毛糸を打った。瞬時に毛糸がうねって、アーリーの影を地面に縫いつけた。これぞガリア「影縫青色糸かげぬいあおいろいと」であった。


 「いいよ、二人とも!」


 ドリガの叫びに、クレイスが一足跳びに下がった。続けてドリガめ、毛糸の端を持って引き絞る。


 「む……!!」


 アーリー、驚いた。影を縫いつけられ、アーリーはまったく動けなくなった。斬竜剣を打ちつけたかっこうのまま、微動だにできない。炎を出そうと思ったが、これもだめだ! ガリアの『力』そのものを縫いつけられた。間髪入れず、デクリュースが襲いかかった。なめてはいない。アーリーを大量の銀鱗粉が襲うと同時に、デクリュースの鎌が振りかざされる。


 「その首、頂戴つかまつる!!」

 「どぅおわあああ!!」


 アーリーの眼が赤く光った。口から炎が吹き上がる。まるで半竜化だが……デリナとの戦いで半竜化してからまだ半年も経っていない。たたでさえ半竜化は覿面てきめんに寿命を縮める。回復し、次に半竜化できるとしたら、最低でも三十年後だ。いまやれば、最悪死ぬかもしれない。では、これは……!?


 「ぬうぅあ!!」


 歯を食いしばり、両脚を踏みしめて、気合をさらに入れる。これは半竜化までもない、アーリーが炎の気合を入れただけだ。だけなのだが、バグルスをも一撃で叩きつぶすアーリーである。メストとはいえ、サラティスではコーヴ級のガリア如き、アーリーが四肢の筋肉を膨張させ、強引に動かすと、縫われた影も膨れ上がって、毛糸を引きちぎった。


 「げぇっ……!?」


 ドリガが驚愕のあまり、カエルめいた声を発した。まさか、力まかせに、いともたやすくこの影縫のガリアを引きちぎるとは!! そんなことができるものなのか!? ドリガは唖然として、へなへなとその場にへたりこんだ。ガリアが消えてしまう。


 もう眼前に迫ったアーリーがいきなり動き出したのでデクリュースは息を飲んだが、かまわず振りかぶった大鎌をその首めがけてたたきつけた。銀鱗粉が炎ごとアーリーを削り取り、その首も鎌の刃が襲う。


 ガッシと衝撃があり、クレイスの巨大万力ガリアをも強引にねじりはずした斬竜剣が、鎌を防いだ。溢れ出る銀粉には、アーリーの無尽に噴き出る炎が対抗する!

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