第221話 スターラの事情
「……と、いうことは、サラティスのバスクですか? でしたら、よければ隊商の護衛をやってくれませんか? ラーペオが今年最後の便なんですが、貨物をスターラへ届ける隊商の護衛が不足しているんです」
「竜が出るのか?」
アーリーが流暢なスターラ語で対応する。ガリア遣いが護衛となると、そうとしか考えられないが、事務所の若い職員の答えは違った。
「この時期は、街道に竜はあまり出ません。出るのは盗賊団です」
「盗賊だと?」
アーリーは意表をつかれた。
「盗賊ごときに、ガリア遣いを護衛にするというのか」
「そりゃ……向こうにもガリア遣いがいますからね」
「む……」
アーリー、赤い瞳を丸くして、驚きを隠さない。いくら竜の出現が無いからといって、ガリア遣いが盗賊までするとは、そこまで
「事情は、一筋縄ではゆかないようだな。どうせ道すがらだ。かまわないが……報酬はいくらなのだ?」
「お一人、五トリアン。無事に荷物をスターラまで届けることができたら、成功報酬でもう三トリアンでます。これでも、ただの衛兵の四倍ですよ」
八トリアン金貨となると、サラティスのカスタでは約十カスタほどだろう。一度の
「ふうむ……」
さしものアーリーも、考えこんでしまった。
「答えは急ぐのか?」
「いいえ、明後日ごろまでに出していただければ」
「仲間と相談する」
アーリーは、いったん宿へ戻った。町で最も高価な宿といっても、町自体がそこそこの規模なのでたかが知れている。泊まっている者は、アーリーら三人と、スターラの裕福な商人の番頭だという人物が一人だけで宿は空いていた。それなりに豪華な調度品で飾られた食堂兼談話室で、アーリーは厚い毛長竜の毛織フード付コートを脱ぎ、愛用の赤竜鱗の軽鎧の上に羽織っているジャケットも脱いで片手にかけた。そして暖炉の火で尻をあぶっていたマレッティとカンナへ、さっそく説明する。
「やあねえ、なによそれ、セチュの仕事ってことでしょお? そんな木っ端みたいな金貨稼ぐのに、ガリアを遣ってらんないわよお」
もともと北方人のマレッティは、ここにきて周囲の者たちとあまり違和感が無い。北方といっても、スターラよりさらに北の民族を先祖にもち、濃い金髪と青い眼、白い肌がいかにも北国の雰囲気を漂わせる。長い脚を開き気味にして大きな尻を火にあて、口をとがらせてそう悪態をついた。
「それよりカンナちゃあん、スターラにはお風呂なんて無いわよお。特にこれから冬なんだからあ、春まで風呂無しも覚悟しとくことね!」
「ええっ!? うそお……ほんとですか、それ」
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