第143話 入り江の竜退治

 「それは分かった。今日は、どのように?」


 「いつも通りにやるから。自分が水上から竜をおびき寄せて、入り江に追い込む。パジャーラが動きを止めて、あたしやトケトケがトドメ」


 「うむ……と、いうことはほぼ陸上戦だな」

 「そうなるね」

 「カンナ、トケトケを護衛しろ」

 「ふえっ?」

 突然ふられ、カンナは驚いた。いや、ニエッタ達も驚いた。


 「過日の話では、トケトケの弓のみが連中に手傷を追わせたそうではないか。私なら、次は真っ先にトケトケをねらう」


 「だいじょうぶなわけ?」


 トケトケは眉をひそめてカンナを見た。カルマを知らないトケトケは、明らかにカンナへ不審を持っている。


 「まあ、いいけど」

 「が……がんばります」


 やがて夜が明けるころ、峠をこえて山道を下り、入り江に到達した。侘しい、風の吹きすさぶ狭い入り江だ。以前はここからも船が出ていたというが、いまは人もおらず閑散としている。朽ち果てた漁師小屋があるのみだ。


 海鳥がもの悲しい声をあげ、凄まじい数で上空を舞っていた。

 「じゃ、行ってくるから」


 ニエッタが右手を振り、ガリアを出した。燻銀の、大きな銛だった。ガリア「竜水銛りゅうすいせん」だ。そのまま海へ入ってゆく。ガリアの力で足元が水を弾き、そのまま氷上を滑るように行ってしまった。カンナとトケトケが二百キュルト(約二十メートル)ほどの高台へ残って陣取り、トケトケはそこから上から入り江へ入ってきた竜を射る。パジャーラもその手から大きな投網を出した。黒い、細かい鎖で編まれている。ガリア「小鎖連環竜捕投網しょうされんかんりゅうほとあみ」であった。これは、からめとった竜を完全に足止めできるというガリアだ。


 アーリーとマレッティは、砂浜で立ってそれを見守っている。

 半刻(一時間ほど)もしたころか。


 ニエッタがすごい勢いで逃げてくる。その背後に、二十近くはいるかという海トカゲの大群が迫っていた。


 「おおい! 何頭かぶっ殺したら、群れに襲われて……」


 ガリアの力で、ニエッタは竜にも負けぬ速度で水上を走れる。入り江にうまく誘い込み、波を切ってUターンすると、荒れ狂う竜へ襲いかかった。銛を次々に竜へ打ち込む。さらに、丘の上からトケトケが矢を射りつけた。トケトケの背丈ほどもある強大な鋼鉄の複合弓のガリア「鋼板発条竜射弓こうばんばねりゅうしゃきゅう」を、その細腕で引き絞っている。ガリアなので、連射も可能だ!


 一撃で竜を射抜き、絶命せしめてゆく。さらに、パジャーラの投網が投げ込まれ、それが空中で刺し網のように長方形に開くと、入り江の狭い口を塞いでしまった。これで竜は逃げられないうえに、何頭か網へつっこんでからめ捕られ、溺れて死んだ。海竜とて空気は吸う。


 たちまち、入り江が竜の血で真紅に染まった。

 肉片をついばみに、海鳥が群れを成してさらに集まってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る