第142話 船上の夢~カウベニー上陸

 「カンナカームィ」

 神官長が険しくも懐かしい声で語りかけた。

 「わたしのなまえ?」

 カンナは幼かった。

 「そうだ」

 「どうしてわたしだけ、みんなとちがうの?」

 幼いと思っていたが、どうも既にいまと同じ背丈のようだ。

 「わたしは誰ですか?」

 「おまえは、カンナカームィという。わかったな」

 「カンナ……カームィ……そんな名前だったっけ……わたし……」

 そこから前の記憶がないことを、カンナは思い出しかけていた。

 


 目を覚ますと、既に暗かった。寒い。風が日に日に冷たくなる。

 まだ、船は走っていた。


 ランプの灯がいくつもある。いや、マレッティは自らのガリアの光だけを出して、船上を照らしていた。


 「起きたあ? カンナちゃん……もうすぐつくみたいよお。……おえっ」

 「だいじょうぶか? 退治は明日だから、今日は手配してる宿でゆっくり休みなよ」

 ニエッタが声をかけた。


 「やけにやさしいのね……カルマがこんな無様な姿で、安心したんでしょお。でも、そのとおりよ。そうさせてもらうから……」


 マレッティが再び船底へ倒れるように突っ伏す。

 「カルマも人間だな」

 ニエッタが肩をすくめ、微笑んだ。

 (あたしは……人間なんだろうか……)

 カンナの鬱は、晴れない。



 カウベニーの港へ滑りこみ、一同は上陸した。リネットはもやった船で待つことになっていた。マレッティはアーリーが背負った。カンナはかろうじて歩けた。


 「じゃ、アーリー、明日は早いけど、なんとか休んでちょうだい。この広場に、五つころ集合ね」


 「分かった。手間をかけさせてすまない」

 五つとは、この季節なら夜明けまでかなりある。暗いうちから出発するようだ。

 翌日、その五つ。


 アーリーとカンナは少し寝てすぐ起きることができたが、マレッティはまだ船酔いの症状が残っていた。


 「景色が揺れるわあ。たまんないわね。まさかまた船に乗るんじゃないでしょうね」

 「いや、歩きだよ。入り江で退治する」

 ランタン片手に、ニエッタが答えた。

 「道すがら、退治の手順をきいておこうか」


 カウベニーの港は、バーレスよりさらに半分以下の規模だった。宿も二軒しかない。そのわりに、漁師の家々は古く立派だった。一昔前は、腕のよい漁師が稼いでいたのだ。


 「それも、竜が出て、かなり収入が減ったというよ。魚がとれないというより、とって加工した魚を売りに行くことができなくなってね。それで、おそかれながら、竜退治を」

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