第113話 北上の甘さ
その足元をぬって、縄のようなものが物陰よりマレッティへ飛びかかった。
マレッティは一瞬にしてふり返りもせずに、右手よりガリアの力である光輪を複数個発し、その蛇めいた、うなぎのような不思議な生き物を膾切りにした。
寄生竜はぶつ切りにされてもしばらくのたうっていたが、やがて闇の中で動かなくなった。
四日後、ヘアム=レイ帝月十五日深夜。満月の朧月夜。三人はカルマの塔の執事長ダンテスと、経理総責任者である黒猫へあとを託し、密かにサラティスを出発した。
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サラティスからストゥーリアへゆくには、三つの方法がある。それは、中継地であるバソ村から別れるのだが、パウゲン連山を超えてゆく山越えルートと、連山の裾野を大回りしてゆくルート、そしてバソ村から西へ向かう街道の行きつく先にある港町リーディアリードから船で北方へ向かう海路ルートだ。
最も早いのはまっすぐ北上する山越えルートで、約二十日で到着する。バソ村まで五日、山越えに十日、山を越えてからストゥーリアまで五日。
次に早いのは、リーディアリードから船でストゥーリア領の港町ベルガンへ二日で行き、そこから徒歩で十日ほどのルート。バソ村からリーディアリードまでは約七日なので、何事もなく進んで二十四、五日……約一か月近くかかるルート。
最も時間のかかる山裾周りルートは、街道を途中で抜け、未整備地帯の多い荒野を進むので、一か月半から二か月を要する。しかし、季節によっては山越えも海路も天候が荒れるので、特に冬場は最も確実かつ安全なルートといえる。竜の出現も少ない。ただし、迷わなければ。
とうぜん、三人は連山越えルートを選択し、街道をバソ村へ向けて北上する。この時期はぎりぎり、厳冬期の猛烈な吹雪の前に越えることができる。
バソ村までは徒歩で五日だが、アーリーの足では四日ほどだろう。しかし、カンナがいるので、やはり五日の行程を組んだ。途中に宿らしい宿はなく、野宿となる。かつては街道沿いに民宿が点在し、鹿や兎、猪、野牛、川魚などの野趣あふるる料理が名物だった時代もあるが、竜の出現によりまぼろしとなった。干しパン、干し果実、干し肉を五日分相応に携帯し、ただただ無味乾燥に歩くだけだ。
この主街道は古代サティ=ラウ=トウ帝国時代に整備され、サティス=ラウ及び北部諸藩連合王国から現代に至るまで、人々の足を支えていた。途中途中に井戸、泉が設えられ、水だけは困らない。旅人は自由に喉をうるおし、水筒に水をつめることができる。
サラティスを出て、二日ほどは順調に旅を続けていたが、連山へ近づくにつれ標高が上がり、夜は異様に冷えた。そこでアーリーとマレッティが大きな荷物から真冬用の防寒夜具を取り出したのでカンナは目を見張った。見たこともない厚さだ。
「そ、それは……」
「中にストゥーリア産の毛長竜の毛がつまってるの。あったかいわよお。防水もしっかりしてるし。……カンナちゃん、やけに荷物が小さいと思ったけど……そんな毛織物のマントだけなの!?」
カンナは何も云えずに唸った。無知は恐ろしい。下女に適当な指示をした自分のミスだ。少なくともアーリーに何かしら聞けば良かった。
「私が火をたくから、あと数日我慢しろ。バソにゆけば温泉もある……そこで厳冬期用の装備を整えるしかない」
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