第96話 優勢

 「ちょろちょろするのがオレの流儀なもんでね……」

 不敵な物云いに、デリナの顔が怒りでひきつる。

 「このネズミめが……!!」

 フレイラは意にも介さぬ。


 「オレはよ、本当はこんな前に出る戦いはしないんだが、そうも云ってられなくなったようだからよ。……カンナ、オレがあいつの動きを止めてみせる。お前が、止めを刺せ!」


 「はい!」

 「オレの前に出るんじゃねえぞ。なにがあってもな!」

 「……はい!」


 いまならその意味が分かる。例えフレイラが倒されても、彼女なら相討ちでデリナへその針を打ち込むだろう。フレイラにかまわず、デリナを倒す!


 「いくぜえ!」

 フレイラが前に出て走った。速い。デリナが槍を振り回して、毒霧を誘導する。

 もう、フレイラの針が数本、飛んでいた。毒すらも裂いて、針が的確にデリナを襲う!

 「小癪なアア!!」


 かなりの速度だったが、デリナは気合で針を避けつつ、槍で弾いた。フレイラが間髪いれずに針を打つ。


 カンナは助太刀したい気持ちを押さえ、フレイラの邪魔をしないよう風上へ回りこみながら、デリナの隙を伺った。倒れ伏し、石みたいに動かないアートも気になるが、どうしようもできない。集中を再び高め、黒剣とデリナを共鳴させる。


 ガ、ガガ、ガガガガ……! 剣が鳴る。来た。今度は早い。地鳴りめいて低周波も地面に響く。デリナも気づいた。


 (バスクスめが……! しかし……余計な……)


 止めどなく飛んでくるフレイラの針を避け、弾きながら、デリナは慎重に間合いをとった。この針がただの針ではないのは、先ほどバグルスの動きが止められたことで察しがついた。おそらく、強力な麻痺か、硬直させる効果だろう。攻めに転じ、同時にカンナの相手をするにも、さすがにカルマ、動きが練達の域に達し隙がない。いったん針の届かない間合いをとって、態勢を建て直さなくてはならない。が、フレイラは執拗にその間合いをデリナへとらせない。思わぬ伏兵に、完全に虚を衝かれた。


 しかし、いつかはフレイラにも隙ができる。それを待つ。

 そのときであった。

 「ぐうっ!!」


 なんたる油断! 激痛に身をすくめる。見ると、竜革のサンダルをも突き抜けて右足の甲を針が貫いていた。


 フレイラが、あらかじめ地面へ突き立てていたのだ!

 デリナはまんまとそこへ誘導された!


 たちまち、足先から右腿、右尻、腰部にかけて、今まで感じたこともない激痛と痺れが襲った。カンナの雷撃ではないが、まさに神経を高圧電気が掻きむしっている。


 「お……の……!!」

 デリナが虚空めいた眼を血走らせる。

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