第89話 反撃
カンナはむっとした。
「フレイラみたいなことを云うのね。アートがそんなことを云うなんて……」
「違う。云い方が悪かったのなら謝る……。いいか、デリナの目的に気づいてほしい。あの女大将は、じっくり攻めてくる。今回の攻撃で、一気にサラティスを陥落させる気なんか、毛頭無いんだ。バスクが減れば儲け物というところだ。じゃあ、なにしに来たかって? 考えろよ」
「わかんない」
「考えてないだろ!」
アートはゆっくりと息をついた。
「いいか……よく聴けよ。やつの今回のサラティス総攻撃の目的は、バスクの数を減らし……カルマの壊滅とあんたの殺害だ。それが目的だ。カルマさえいなくなれば、サラティスなんざ、昼寝しながらでも陥落できる」
カンナは小首をかしげた。
「……よくわかんない。カルマはいいとして……どうして、わたしが?」
アートが視線をはずす。
「そりゃあ、あんたの可能性が高いからだよ。バスクスだっていう噂だ……」
「わたしはバスクスなんかじゃない! 可能性なんか関係ないでしょ!」
「関係ないわけがないだろう!」
「アートは可能性が小さくても、わたしより強いじゃない」
「いや、まあ……そうかもしれないけどよ……」
「帰らない。戦う。カルマとして。可能性が関係ないって云ったのはウソ。関係ある、きっと……わたしにしかできないことがあると思う。わたしだってカルマだわ」
「おい、なんだよ、急に真面目になって……何か変わったか?」
「変わってない! 戦う! 竜は全部……竜は全部倒す!! 倒すの!! 倒す倒す倒す! ぜんぶ倒してやるんだから!!」
アートが顔をしかめた。やはり、何か妙な固定観念が植えつけられているのではないか?
「おちつけ……。いいか、カンナ……あんたは、いまが一番弱いんだ。いまですら。これから、おれなんざ比較にならないくらい強くなるだろう。そのために、いったん引け。ここは、引くんだ」
「なに云ってんのか、ぜんっぜんわかんない! ゼッタイ、イヤッ!!」
カンナは眼をむいてそう叫び、走り出した。アートがあわてて後を追う。
「おおい、まて、待てまて!」
カンナは無視して、森を進んだ。高台を下り、沢を超えて、木々の合間を縫って獣道を行く。アートはしかし、カンナを止めなかった。
「分かった、分かった、つきあうよ! 逆にこっちからケリをつけてやろうぜ! その代わり、おれから離れるなよ!」
カンナは笑って跳び上がり、アートにだきついた。
アーリーとマレッティは、すみやかに森を抜けかけたころ、梢の上を一頭の鴉飛竜がカンナの元へ向かったのに気づかなかった。一瞬、風が舞いこんだが、マレッティが振り返っても、もう竜の姿はどこにもなかったからだ。
それからすぐに森を抜け、二人は荒野へ出た。がらんとして、竜の気配もない。
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