第87話 アートとデリナの死闘
「ぬう……!」
瞠目したデリナは、その隙にカンナを襲おうとすら思わなかった。案の定、振り返ったアートがその右手からドリルを飛ばしてきた。カンナへ向かっていたら、背中から上半身が無くなっていただろう。
それを避けつつ、デリナは穂先をアートめがけ飛ばした。アートは難なく左手でそれを払った。元は楯だけに、穂先は凄い勢いで弾き飛ばされた。しかも高速で回転しており、毒も遠心力で弾かれ、通らない。デリナは目を細めた。防御力はまだしも、思わぬ攻撃力だ。このドリル拳に対抗するには、何かしらの陣が必要だが、陣を構える間が無い!
飛ばした右手のドリル拳が戻り、アートが、ゆっくりと両手を構え、デリナをにらみつけた。
「まさか……のこのこと不用意に敵の大将がやって来るとは思わなかったが……」
「ぬ……」
アートの厳しい視線に射抜かれ、デリナは硬直した。
「覚悟しろ!!」
アートの眼が怒りと殺気に燃える。再び走り込んでデリナめがけ両拳をふりかざす。足元の悪いドレス姿では、その攻撃を避けるのは至難に思えた。デリナの顔が、牙を剥き厳しくひきしまった。
なりふり構わず、デリナはドレスのすそを割き、白く艶かしい太股をあらわにして、引きちぎった。そして大股に腰を据え、人間ごときに負けてなるものかと槍を構えると、気合を入れてアートを迎え撃つ。
「ぬあああ!」
アートとデリナの裂帛の気合が重なった。
ガッギ!
槍とドリルが合わさり、力負けしたデリナの穂先が回転に弾き飛ばされるも、アートの体も崩れる。そこを、デリナの槍から大量の毒霧が吹き出た。猛毒ガスだ! たまらずアート、その真っ黒いイカスミのごとき霧をドリル拳で払う。だがデリナの毒の煙は無尽蔵に吹き出て、アートを襲った。デリナは槍をかざして、毒を操った。
「……こいつ!」
アートは息を止めて、下がらざるを得なかった。逆にデリナが追い撃つ。連続して槍を突き出し、同時に漆黒の毒が噴霧される。その毒のふりかかった草木が、たちまち立ち枯れ、あるいは腐って崩れた。
デリナの背中へ再び毒霧の翼が出現し、下段へ横薙ぎに毒ごと槍を打ちつけつつ、ばっさりと浮かび上がって、翼より黒い雨を叩きつけた。これは毒液だ!
アートが、大きく横へ飛んでそれを避けた。そのまま転がって、さらに距離をとる。
デリナはゆっくりと着地した。
だが、このまま時間をかけていては、アーリーに気づかれる恐れもある。どうするか。
と、まだ横になっているアートへ、直上から鴉飛竜が急降下をくらわせた。炎を吐きつけ、気配を感じたアートが起き上がりつつ左手をかざした。ドリル拳が解除され、二枚、障壁が連なってアートを炎から護った。さらに、爪を突きたてる竜へ右拳をアッパー気味に叩きつける。ドリルが飛び、大柄だが華奢な空の主戦竜の心臓を貫いて回転が肉体を爆砕! 肉と血と骨を周囲へまき散らして、竜の胸から上が吹き飛んだ。
デリナが、ぶっ飛んできた竜の首を避けた。いくら飛竜類は体格が細いとはいえ、おそるべき破壊力だ。
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