第86話 ドリル攻撃

 「ばかめ!!」

 デリナが横たわるカンナへ槍を向ける。

 「うおああああ!!」


 アートは死に物狂いでデリナへ掴みかかった。まさか素手で襲ってくるとは思わずに、デリナは虚を衝かれた。長い波うつ黒髪を捕まれ、引きずり倒される。


 「……無礼な!!」


 怒り狂うデリナが槍を振り回してアートの脚を狙った。アートがそれを跳んでかわし、馬乗りとなってデリナを殴りつけた。デリナが槍を両手で構えて防御する。アートが手甲を再び装備し、デリナの槍の柄を掴んでその白い喉元へ押しつけた。凄まじい力だった。


 槍の両端が再び飛んで、鎖を鳴らして上昇し、一気に下降してアートを背中から襲った。アートが障壁を展開しつつ、デリナから離れた。デリナが槍先より毒を噴霧ふんむするも、アートの障壁が防ぎ、はためいて空気を対流、風をおこして霧散させる。その隙に急いで立ち上がろうとしたデリナへアートが掴みかかり、その腕をとって抱え上げると豪快にぶん投げた。


 デリナが悲鳴をあげ、草むらへ叩きつけられて転がる。ドレスが破けた。なんたる屈辱!


 アートが漂う毒よりカンナを護って動かない間に、デリナはゆっくりと起き、髪と身体へ草や落ち葉をつけ、怒りよりも憎しみと殺気で漆黒の毒気がとぐろを巻いて立ちのぼった。


 「……こんな目には、アーリーにだってあわせてもらったことはないわえ……己、名をきいておこうか……!!」


 あらわになった白くおおきな片胸を無様に破けたドレスよりのぞかせ、隠しもせずにデリナの声が地の底から響く。


 「アートだ。サラティスのガリア遣い、モクスルのアート」


 「可能性は低くとも、ダールと張り合う輩が本当にいるとは……世の中は広いものよ。だが、次の攻めはどうする? 我は、同じ手を、二度はくらわん」


 「どういう手だ? 広いついでに、こういうのはどうだ?」


 アートが再び虹色の障壁を四枚出した。しかし、デリナの槍を受けるとその毒を流しこまれる。ガリアの毒はガリアを侵す。


 「同じ手ではないかえ」

 にやり、とデリナが口元をゆがめた。

 「そうかな……!?」


 アートが呼吸を溜めて気合を入れると、障壁が少しずつ折り畳まれはじめた。さらに、それがゆっくりと二枚ずつ両手に装着される。光の楯がさらに複雑に折られてゆき、やがてその両手には、刺まみれとなった虹色の巨大な円錐の拳が装着された。しかも……高速で回転して光をばらまいた!


 「これは……!?」

 デリナが眼をむく。

 「楯バカアート様の、楯攻撃だ!」


 アートがその虹色に光るドリル拳を振りかざし、デリナへ突撃をかました。猪突竜の胴っぱらを一撃で引きちぎる威力がある!


 デリナが、さすがに避けた。勢いがあるのかアートのパンチは大降りで、虹光にまみれて後ろの立ち木につっこんだ。一撃で大木の根元が粉砕され、すさまじい音を立てて木屑をまき散らしてひっくり返った。

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