第81話 浄火

 「アーリーどの、こちらです!!」


 カンナを背負い、ガリア「葆光彩五色竜隠帷子ほこうさいごしきりゅういんからびら」をマントのように広げて身を隠して一目散に逃げてきたのは、マラカだった。撤退の合図を聞いたアーリーとマレッティも、素早く引いた。アーリーは目ざとくマレッティと合流し、駆逐竜を避けるためにガリアを消して走ってきたマラカと打ち合わせておいた森の中の某所へ集結する。高台になっており、離れたところに岩石が突き出ている場所があって、竜からは完全に見えないうえに、こちらはその崖から竜どもの陣を見渡せる。


 「マレッティどの、明かりを!」


 マレッティがガリアで草むらへ横たえられたカンナを照らし、ぎょっと息を飲んだ。カンナの白い肌はどす黒く変色し、すでに死んでいると思った。


 「……まさか、毒う!?」

 「迂闊だった。こちらの奇襲を読まれていたとは。デリナのガリアは、猛毒の槍だ」

 「死んでるのお!?」

 マラカがカンナの喉元に手を当てる。

 「まだ、生きています」

 アーリーがうなずいた。


 「さすが、カンナ。ひとつの傷も受けていない。デリナの毒は、かすりでもしたならば即死だ。しかし、毒をかなり吸ったようだ……」


 「ちょっと、どうするの? アーリー……解毒薬なんて……」

 「大丈夫です、マレッティどの。アーリーどのにおまかせを」

 「あんた、だれ!?」


 マレッティは、マラカを見るのは初めてだった。マラカは答えない。マレッティはむっとしてマラカをにらみつけたが、マラカは完全に無視した。


 「二人とも下がっていろ」


 アーリーが雇っている間者だろうことはマレッティにも分かったので、アーリーを立てて、マレッティは押し黙ってアーリーのすることを見ていた。


 アーリーは炎色片刃斬竜剣えんしょくかたばざんりゅうけんを右手へ出し、息を整えた。アーリーの呼吸に合わせ、斬竜剣からめいて炎が吹き上がる。


 日が昇ってきた。周囲が薄墨色に明るくなってくる。


 太陽が木々の合間を抜けて森の中にも差し込んできた瞬間、アーリーは斬竜剣を大きく振りかぶって、横たわるカンナめがけて打ち下ろした。


 「アーリー!?」


 ごほぉう! と炎が吹きつけられ、カンナを包んだ。その炎を高く吹きあげ、轟然とカンナが燃え盛る。


 「ちょっと、アーリー!! 何を……」


 アーリーはガリアを消した。カンナは炎の中でしかし、安らかにねむっているように見える。


 「マレッティどの、アーリーどのの炎は、浄火の炎なのです。強力なガリアの毒すらも、燃やし尽くすのです」


 そんな話は初耳だったが、マレッティは驚きを隠して平然とふるまい、意趣返しでマラカの言葉を無視した。マラカが小鼻で笑う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る