第65話 カンナカームィ
「無理もないさ。ああいうのに、焦りは禁物だよ。やっと……やっと誕生したんだ。失敗は許されない」
「のむか?」
アーリーが真鍮の小さなボトルを出した。蒸留酒を入れるものだ。アートが受け取り、蓋をとって、匂いをかいだ。
「……ずいぶんと高そうな
「ストゥーリアのウィスキーだ。珍しいだろう」
アートが一口、傾ける。
「……うまい。麦汁の蒸留酒か」
アートからボトルを受け取り、アーリーも傾けた。
二人とも、しばし黙って夕日をみつめていたが、アーリーがぼそりとつぶやいた。
「カンナのガリアの力は、『音』なのか?」
「音……そうだな」
アートは左手で顎の無精髭をさすった。
「カンナの本名……『カンナカームィ』は、ウガマールの古い言葉でいわゆる『雷神』だ。しかし、直訳すると『雷鳴の神』となる。稲妻は、あいつの本当の力の副産物にすぎない。そこを取り違えると、あいつの力は一定以上は絶対に出ないし、ヘタをすりゃ空回りして、まるで役に立たなくなる。全ては自覚だ。ガリアというのは、自覚の問題だからな」
アートはまたボトルを受け取って傾けた。
「知ってるだろ?」
「ああ……だが私ではうまく伝えられない」
「俺だって言葉では……こういうのは、自分で感じるものだからな」
「しかし、カンナは目覚めた。自分の力を感じた。まだ自在にガリアを遣いこなすというまでではないだろうが、自分の力を知ったのは大きい。これから、良くなるだろう。……アート、おまえが導いた」
「そんな、大層なもんじゃ……ないよ」
アートはどうにも面はゆかった。
「それより、アーリー。やはり、あいつが来るぞ。カンナを狙っているのはあいつだ。バスクスがまだ未熟な内に殺そうとして、執拗にバグルスを送り込み、狙っているのは……あんたの幼なじみのダール……バーレクデーリィナーンダラァー」
「……分かっている……」
「おまけに、いざとなればサラティス防衛を担うバスクの数を計画的に減らしていたとは、まったく恐れ入るぜ」
アートが首を振って唸り、思わずウィスキーを一気に空けてしまった。
「おっと……すまん。のんじまった」
「いや……」
アーリーがボトルを返してもらい、腰のポーチへしまった。
「デリナがどういう手を使おうと……こっちの切り札はカンナだ。いま、向こうはカンナの力を見極めている段階にある」
「まだ完全に知られる前に……こっちから手を打つのか?」
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