第54話 竜の種類

 「主戦竜がよく隠れているのはここだ。地図を見てのとおり、ここは比較的でかい森で、主戦竜も隠れることができる。前、軽騎竜を退治したのがここで、その前に例の駆逐竜をやったのが、ここ。……比べるとちょっと遠いが、援助を頼めるセチュはいないんだ。どういうわけか、応募に誰も応じない」


 「ホントに主戦竜が一頭だけなの?」


 「斥候の話ではそうだがな……セチュの見立てだからな。確約はできない。軽騎竜が何頭かいるかも」


 「やるしかないんでしょ?」

 「そういうことだ」


 カンナの脳裏に、眼前で一瞬にして食われたヤーガが浮かんだ。たとえカルマといえども、油断していたら同じ運命となる。竜を退治するというのは、そういうことだった。現に、カルマでもカンナが来る前に一人、死んだばかりだったはずだ。


 「やるしかない……やるしか」

 自分を追い詰め、ガリアの奥義を得る。リスクは高い。

 翌日、野営の準備を整え、三人は出発した。

 再び、カンナは二人を先に歩かせ、こっそりと身分証を提示する。


 竜には、夜行性と昼行性があり、森を夜襲するか昼に攻め込むかを判断しなくてはならない。主戦竜と一口に云うが、四種類の竜が確認されている。それぞれ「猪突竜」「鴉飛竜」「山嵐竜」「大王火竜」と名づけられ、認識されている。


 猪突竜は陸戦型で四つ足、突進用の大角と牙を持つ竜で翼は無い。主戦竜といえば、大概がこの大地を駆ける猪突竜だった。首が長いもの、短いものがいて、角の大きさや数も異なり、牙も下顎から突き出ていたり、上顎から出ていたりと、何種類か亜種がいるのだが、一般的には区別せずまとめて猪突あるいはイノシシなどと呼ばれている。


 鴉飛竜は漆黒の大きな翼を持ち、上空から凶影となって襲いくる飛竜で、前肢が翼になっているのが特徴のもの。これも角があったり無かったり、尾が長かったり尾の先へ鉤や刺がついていたりと、微妙に違いのある何種類かがいるのだが、研究者以外にはまとめてカラスとして分類されている。


 山嵐竜は、巨大な三列の太い針状突起を背中に持っており、二足歩行で強力な機動力を発揮する。これも翼は無い。頭や手の大きさ、刺や角の数、毛の長さ、爪の数などで何種類かいるが、他と同様にヤマアラシで統一されている。ちなみにヤマアラシとは、帝国時代の文献に記録が残っている、背中一面が針の山となっている大きなネズミのことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る