第55話 夜戦
そして大王火竜は、竜の中の竜に相応しい、体長は二百キュルト(約二十メートル)に及ぶひときわ大きな身体と翼、手足を持ち、一頭で出城を一つ落とすという真紅の化物だった。これは、この一種類しか確認されていない。
このほかにも、海に大型の海生竜が現れたという噂もある。また北方にも独自の竜がいるという。
ちなみに軽騎竜も、幾つかの種類が確認されているが、区別するほど重要ではないので、ひっくるめて分類されている。
「ま、猪突だっつうからさ、あれなら、なんとかなると思うんだ」
アートは気楽な調子だった。
竜は、次から次へと現れて、確かにきりがなく、一頭あたりの被害も大きかったが、かといって倒しきれないほど溢れ出るということは無い。ここ十数年ほどはうまくバスク組織が機能して竜は出るたびに退治されているし、平原を行軍中に目標以外の竜にばったり遭遇、というのは、滅多になかった。あっても、移動している竜を遠目に見かけるというほどで、そのままサラティスかどこかの村へ向かってしまう。追いかけようにも、馬でも追いつけないし、馬はいまや貴重な交易用・農耕用の家畜であってバスク達が使うほど数はいなかった。基本、バスクはひたすら歩く。かつては狼や熊、大型の剣歯虎が旅人を襲っていたが、今は竜に食われたのか、獲物が竜に食い尽くされたのか、これもほとんどいない。平原は、小動物と些少の草食獣しかいない時代となった。
三人は丸一日歩き続け、やがて目的地であるラッテロの森林地帯へさしかかった。夕刻が近い。森は広く、うっかり夜に入っても迷うのは必定だった。
「ここで野営だ」
背負っていた荷物を下ろし、手頃な大きさの石を集めて、アートが
「火なんて焚いて大丈夫? 竜に見つからない?」
「不思議と見つからないんだ、これが。湯を沸かして、コーヒーを淹れよう。晩飯は乾パンと燻製した魚、干しリンゴ。魚は鯉と鯰。鱒は高いからな」
「コーヒーなんて持ってきたの!? 余裕ね……水は重かったでしょう」
カンナは呆れた。
「コーヒーを飲まないウガマール人がいるかよ。おいクィーカ、食料を出してくれ」
ふごふごと鼻を鳴らし、クィーカが手際よく食事の支度をする。カンナは、野宿は慣れていたがこのような野営はしたことがなく、棒立ちだった。
手早く夕食をすませ、火を消すとめいめいに横になった。ウガマールからサラティスへ到る旅路を思い出し、カンナはなぜか星空が懐かしかった。
何刻も寝ていないだろう。
「おきろ」
カンナはすぐに起き、眼鏡を手さぐりで捜しあてた。クィーカも起きている。森は真っ暗闇だが、雲がなく、月明かりと星明りがあった。
「夜戦の準備をしろ」
「竜なの? イノシシ竜って夜目が効くの?」
「効くけど、あまり夜にうろつかないはずなんだがな」
アートが暗がりにギラリと月光を反射する手甲を装備した。銀色の
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