第38話 身分証

 食事を終え、本を読んだり、外を眺めたりして少し休んでから、三人は用意をし、退治に出発した。


 「正確には、退治の手伝いだな。今日はコーヴの二人組が珍しい竜が接近しているのを迎撃するんで、それの補佐をする。こんなの、本当はセチュの仕事だが、自分らの雇っているセチュには断られたらしい。斡旋所でも誰も応じなくて。だからって、まともなバスクはそんなセチュの仕事なんかしない。つまり……俺の出番よ」


 歩きながら偉そうにアートが云う。しかし、そんな自慢げに話す内容ではないというのはカンナにも分かった。クィーカも分かってか、声を殺して笑っている。


 サラティスの正門を出たところで待ち合わせだというので、三人は町外れから市街地を横目に城壁沿いに歩いて、門をめざした。


 「ねえ、クィーカ、いくらガリアがあるって云っても、小さいのに一人で竜退治の手伝いなんて凄いのね。ご両親はなんて?」


 「両親は、竜に食べられました。ふごっ……」

 カンナは目を丸くして息をのんだ。

 「ごめんなさい。まったく……想像もしてなくて」

 しかし、クィーカはむしろ誇らしげに続けた。


 「ふごっふごっ……幸い、自分はガリアを遣えました。可能性たった3の自分でも、アート様に拾ってもらったおかげで、竜退治に加われます。村のみんなの敵討ちをして、ご飯を食べられます。こんな、うれしいことはありません!」


 「……あ、そう……」


 考え方が二人とも自分と根本的に異なっており、カンナはカルマのメンバーと出会った以上に何かが衝撃的だった。


 やがて、正門から出る。先日出たときはアーリー達の顔パスだったが、今日は身分証を出さなくてはいけない。アートとクィーカが青銅色の身分証を見せ、セチュの衛兵が確認する。バスク及びバスクと共にいるセチュは、通行料がかからない。カンナは二人が先に行ってから、こっそりと小物入れより黄金に輝くカルマの身分証を出した。


 衛兵が驚いて声を上げようとするのを振り切って、急いで後に続く。

 「あー、どうも、俺がアートです」

 城門の外で待っていた二人組のバスクに、アートが気安げに声をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る