第37話 森のミミズク
「いやっ、まあその、ええー、と、その、そのですね……そのー、そうですね……えー、よ、よ、よ~……よんじゅう……ようじゅうご……だったかな。それくらいです……」
「45でも俺より多いじゃないか! でも、あんたモクスルにいた? いつからバスクを?」
「み……三日まえ……」
「来たばっかりか! それで、いいとこ見せようとして退治に失敗したな? 焦りは禁物だ。命を縮めるぞ。俺が云うのもなんだがな!」
「アート様は、少し焦ったほうがいいです。仕事しなさすぎい!」
二人が楽しげに笑う。カンナはフレイラの言葉を思い出し、胸がつぶれそうになった。笑い声がつらい。
「なあ、あんた、どこの誰と組んで退治をしたか知らないが、来たばっかりで退治に失敗じゃ、元のところに戻っても肩身が狭いだろ。これから一人で退治するったって、新人じゃ難しい。仕事を得るのが難しいんだ、この世界は。知ってのとおり、竜はいるんだが、みんな死にたくない。仕事を選ぶんだよ。楽な仕事はみんなで取り合いだ。その点、俺なんか気楽なもんだ。誰もやらない仕事をやってるから、報酬も少ないが、食うに困らない。しばらく俺を手伝って、ほとぼりを冷ましたらいい」
カンナはうつむいて考え込んだ。塔には戻りたくないし、戻れないだろう。かといって、ウガマールに帰るわけにもゆかない。ウガマールにはもう帰る場所はない。
「あんた、どんなガリア?」
「……剣です。黒い剣……稲妻が出ます。……ちょっとだけ」
「そりゃいい! 攻撃担当だ。俺とクィーカのガリアじゃ、竜を倒しきれないんだよ。だから他の連中の後始末ばかりやってる。あんたさえ良ければ、しばらくここにいてくれないか」
「え……」
「なあ、たのむよ」
カンナは戸惑った。ふと見ると、クィーカもその大きな瞳でじっと自分をみつめていいる。
カンナはうなずいた。
「ええ。はい……分かった。お世話になります」
「よおし、きまりだ、良かった。今日の午後からさっそく一件、入ってるんだ。それを手伝ってくれ。そして、次からは少し退治らしい退治をやろうぜ!」
アートが立ち上がってカンナと握手をした。クィーカも嬉しげに笑っている。
「ふごふご……少しはいいものが食べられますかね、アート様!」
「ああ、食えるさ。カンナが止めを刺してくれるから、軽騎竜くらいはなんとかなるだろう。軽騎竜の相場は、二十五カスタだぞ!」
「ふごっ!! 二十五カスタ!! 見たことない……」
クィーカがうっとりとスプーンを握ったまま夢を見るような顔となった。カンナは先日カルマでもらった百カスタが恥ずかしかった。もう、使いようもない百カスタ。
と、カンナの頭上を生き物がかすめる。羽音もなく飛んできた小さなミミズクだった。部屋の隅に設えている止り木に止まった。サランの森から来たのだろうか。
「こいつはうちに住んでるんだ。森で勝手にえさをとっている。寝るときだけここに来る。もう寝る時間だ」
「へえ……」
その大きな眼を眠そうにして、ミミズクは首を縮めていた。
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