第36話 朝食のひととき
「お互いさまよ。あんた、見たところバスクのようだが……竜退治で返り討ちにあったか? 昨日、わざわざ雨の中、森で退治をしているようだったからな。ご苦労なこった。俺もバスクなんだ。珍しい男バスク。いまのところ、サラティスじゃ俺だけだな。所属はモクスルだ。こいつは、セチュのクィーカ。俺の助手。こう見えてガリアを遣える。もっとも、可能性はおそらく史上最低だがな」
そう、一気にまくしたて、アートは豪快に笑った。
クィーカも、怒るどころかいっしょに笑っている。
「ふごふご……自分は、可能性3なんです。驚異の3! 一桁です! それでも、れっきとしたガリア遣いですからね!」
パンクズをこぼしながらクィーカはむしろ自慢げに云った。
「なあ、起きたのなら、いっしょにメシを食おうじゃないか。服は……まだ乾いてないかもしれないが、女物はクィーカのやつしかないんだ。小さくて入らないだろうから、生乾きでも我慢してくれ」
「お天気いいから、きっともう乾いてますよ。ふごっ……」
「あ、ありがとうございます」
カンナは毛布のまま裏手へ回り、物干しにかけてある服をとった。高くなった日差しに、ほとんど乾いている。それを着込み、身分証の入っている小物入れを首からかけると、部屋へ戻った。
「あの、すみません。わたし、これで失礼します……」
「まあ、待ちなよ。飯くらい食ってけって。たいしたものはないけどよ。これもなにかの縁じゃないか、さあさあ」
アートはカンナを無理に席へつかせた。確かに腹が空いている。そして確かに、たいしたものではなかった。ウガマールの釜焼き薄パンとレンズ豆のスープ、安いベーコンの切れ端をカリカリに焼いたもの、それにコーヒーだった。
「やっぱり、ウガマールの味じゃないとなあ。幸い、向こうからの交易路はまだ竜に襲われにくいから、こうしてコーヒーも安く手に入る。食料だって、ストゥーリアよりゃまだまだ余裕だ。さ、遠慮せずに。それともウガマールの食い物は苦手?」
「いえ! うれしいです。わたしも、ウガマール地方の出身なので」
「へえ!? そうなの!? 見たことないな。あんたみたいな部族……」
アートの眼が、驚愕に見開かれた。
「ええ、と……まあ、その……すっごい奥地なんです。すっごい……。ウガマールから、船で五日くらい遡ったところです」
「そんなところに人がまだ住んでるのか。凄いね、どうも。ま、じゃ、遠慮せずにやってちょうだい」
カンナがパンを手に取り、美味しそうに食べ始めたのを見て、二人も朝食を再開する。
「俺は、可能性は41だ。ぎりぎりバスクやってる。仕事も、他のバスクの後始末みたいなものばっかりだ。云ってみりゃ、ゴミ掃除だよ。収入もそれなりだ。だけど、ゴミを掃除するやつがいないと、ゴミはなくならない。そういうもんだ。あんた、可能性は?」
カンナがパンで喉をつまらせる。コーヒーを急いで飲み、今度は熱さで吹きそうになった。
「ふごっ……だいじょうぶ?
クィーカが、妙に難しい単語を使って見せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます