第32話 カンナ悲壮
フレイラは濡れそぼって冷たくなっているカンナの肩を抱き起こし、叫んだ。
「さあ、とっとと逃げるぞ! いったん引いて、アーリーさんと合流して出直しだ!」
しかし、立ち上がったカンナは荒い息のまま、水滴の滴る漆黒の髪を振り乱し、眼を見開いて剣の構えを崩さない。
「おい!!」
フレイラはカンナの肩をゆさぶった。
「……ません……」
「あ!?」
「……逃げません!! 倒します!! 倒す!! 竜はッ……全部!! たあおすんだああ!!」
「はああ!?」
云うが、カンナがフレイラを振り切って土潜竜へ向けて走り込む。
「……こおおおのクッッソバカやろおおおおお!!」
フレイラの怒りが爆発した。
カンナへ向けて針を打つ。
しかし、カンナは凄まじい形相を見せ、振り向きざま、黒剣でその針を打ち払った。
「なんだって……!?」
一瞬、フレイラが怯んだ隙に、カンナはふらふらして無防備な土潜竜の首の急所へ体当たりで黒剣を突き刺した。雨の中、爆発光が何度もほとばしり、感電が竜を襲う。フレイラがその衝撃と閃光に手をかざして顔をおおった。さらに、本物の落雷がカンナめがけて落ちた。
カンナは剣も離して後方にぶっとび、尻餅をついた。メガネがずれ、あわててかけ直す。土潜竜は白い煙を上げて膝から崩れ、横倒しになった。突き刺さったままの黒剣がまだスパークしている。
今だ。カンナを気絶させてでも引かなくては。フレイラは放心しているカンナの腕をつかんで立たせ、無言でひっぱった。が、眼前にバグルス、そして背後の森から猛ったもう一頭の土潜竜が飛び込んできた。
「あぶねえっ!」
竜の突進を避けつつ、カンナをかばってバグルスとその土潜竜へ針を打ちつけた。どこかへ針を受けた竜がどっと倒れる。だがバグルスは、無理な体勢から打った針を難なく避けて、ゆっくりと近づいてきた。
しかし逃げる隙はある。フレイラが進もうとすると、再びカンナがその手を振り払う。
「……てめ……え……!!」
フレイラは怒りで震えてきた。
「わたしは……逃げない!! 竜は……竜はせんぶ……ぜん……!!」
カンナの眼が異様に見開き、バグルスへ突貫する。その姿は悲壮感にあふれ、力強さはどこにも無かった。フレイラの針がバグルスの眼に突き刺さるのと、その衝撃でバグルスの張り手がカンナを外したのと、カンナの剣先がバグルスの胸下に滑り込むのと、同時だった。
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