第30話 カンナ無力

 フレイラは地面へ下りて、カンナへ近寄った。


 「下がってろ、先にこいつをぶっ殺してやる!」 カンナは自分ではうまく戦っていると思っていたので、その指示に驚いた。


 「えっ、でも……」

 「いいから下がってろ!!」


 その剣幕は竜より恐ろしかったので、素直に下がり、安全のため土潜竜の側面へ回り込んだ。


 ガリアであるフレイラの針は、ただの針ではない。投げ打つだけではなく、自由に飛ばすことができる。素早く回り込み、その甲羅の隙間めがけて右手より針を放った。手投げ矢よりも正確に、竜の皮膚の柔らかいところへ滑り込む。


 フレイラはそれを確認し、自らも下がった。後は針が効いて動きが鈍くなるのを待つ。


 カンナも遠巻きにそれをみつめていた。雨が激しくなる。そのカンナの背後へ、バグルスが迫っていた。カンナより先にそれへフレイラが気づく。


 「……カンナ、逃げろ! バグルスだッ……!」


 雨音で聴こえないのだろうか。カンナの様子が変わらない。フレイラは急いで近づくものの、藪に阻まれてなかなか前に進めなかった。


 「カンナ、カンナ!!」


 ようやくカンナがフレイラへ気づき、そして後ろを振り向いてバグルスに気づいた。しかし、カンナは剣を構えて逃げない。


 「おいなにやってんだ、逃げろっつってんだろ!!」


 ちょうど太い倒木と立ち木が交差して、フレイラはもどかしくそれを回り込んだ。カンナは聴こえていないのだろうか。


 いや、カンナは分かっていた。しかし、バグルスがだらしなく弛緩し、目も虚ろで口から泡をふいているので、倒せると判断した。


 「バグルスを甘く見るな! いいから下がれッ、このクソド素人のド新人がああ!!」

 フレイラが眼を血走らせて必至に下草と藪をかき分けた。

 「わたしは……わたしの共鳴を信じます!」


 カンナは黒剣が……ガリア「雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけん」が高鳴るのを待った。


 しかし鼓動だけが高鳴り、いまいち剣は鳴らなかった。だが、上空の雷鳴に合わせ、おびただしく帯電しているのは分かった。剣からプラズマが放電している。


 「ええい!」


 振りかぶり、その太い胴体めがけて剣を振り下ろした。ズバッ! と雷撃の弾ける音がして、剣が胴体に食い込んだ。が、そのぶよぶよに見える腹は剣打を強力に弾き返し、さらに雷撃も何の効果も無かった。


 「あれっ……」


 カンナは二度、三度と剣を叩きつけた。閃光と破裂音がし、激しく稲妻も弾けるが、全て通らない。カンナは驚いてその巨体を見上げた。


 明後日のほうをむいていたバグルスの赤い眼が、ぎろり、とカンナを見た。

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