第29話 フレイラの技
「カンナ、オレがバグルスをやる。初めて見るやつだが……初手から全力だ。おまえはモグラをやってくれ。ただし、絶対に無理するな。囮のつもりで、引きつけろッ」
カンナが返事をする前に、フレイラは跳び出ていた。バグルスが振り向く。フレイラは鋭い吐息と共にバグルスへ踊りかかった。
フレイラは格闘戦の合間に、針を打つ。幻覚と麻痺の針は、アーリーのような主戦を担う仲間の補佐が役目と思いがちだが、その強力な幻麻はバグルスといえど恐慌状態や硬直、あるいは意識喪失、意気消沈となり、その隙に一撃で息の根を止めることができる。
土潜竜がそんなフレイラへ向けて吠えたので、カンナはその前に出て、黒剣を振り回した。
「ホ、ホラッ、あんたの相手はわたしよ!!」
土潜竜、カンナを威嚇する。でかい。臭い。恐ろしい。カンナは泣きそうになった。
「ばか!! 竜の正面に立つなッ!!」
カンナはあわてて身をひねった。轟然と竜が細い口から炎を吹いた。危なかった。熱気に木の葉が焦げる。
フレイラはカンナへ振り向いた隙に、バグルスの強烈な突っ張りをくらってぶっとんだ。こいつ、かなりの肥満体のくせにやたらと動きが素早い。そしてすさまじい力だ。四、五十キュルトも飛んで草むらに転がった。全身へ衝撃が走る。だが、張手をくらった瞬間に、その腕へ針を一本、間違いなく打ち込んだ。
「へ、へへ……せいぜい夢見てろ!」
フレイラの太い針は強烈な幻覚を竜へ見せ、また相手によっては猛烈な痛みと痺れをもたらす。その間に、フレイラが「竜の魂の芯」と呼ぶ急所へトドメの
だが、相手はバグルスだ。腕への針では、止めを刺せるまで「酔っぱらう」には時間がかかるだろう。フレイラはカンナの助っ人へ回ることにした。
案の定、雨の中、カンナは土潜竜に攻めこまれて喚いているだけだった。
「おい! カミナリが出るんならそれを使えよ! ガリアは竜へ特別な傷を……」
フレイラの身体が浮かび上がった。何事かと思ったら、バグルスがフレイラの腕をつかんで持ち上げ、地面へ叩きつける。
「ぅうお……!?」
身をよじり、地面へ打ちつけられる寸前にバグルスの顔面へ針を打ちつけた。その針を身を捻って避け、のけ反ってフレイラを空中で離したので助かった。投げ出され、大きく飛んで木の枝にひっかかっる。フレイラはそのまま枝をつかみ、状況を確認する。土潜竜はカンナが激しく黒剣から雷撃を放っているが、皮の厚さに阻まれ、いまいち効果を得ていないように見えた。なによりカンナ自身がへっぴり腰で、威力もそう出ていないのだろう。
バグルスは後ろに倒れかかったが持ちこたえ、体勢を整えた。効果がないのだろうか。いや、動きが鈍い。効果は確かにある。
(さすがに、この体格ともなりゃあ、簡単にゃ効かねえのか……? それとも、あいつが特別なのか……? まさか……)
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