第27話 モクスルの理由

 フレイラが素っ気なく云い放って歩きだしたので、カンナが続く。

 「ねえ、そっちのセチュも置いてったほうがいいんじゃないの!?」

 同じ年頃のカンナを心配してか、アンリータと名乗った娘が叫んだ。


 「余計な心配だ、こいつもカルマだよ! ……おまえもなんとか云えよ! 黙ってるから、セチュだと思われてんじゃねえか」


 「えっ? ……ええ、ああ、あの、そ、そうなんです」


 そう云った瞬間、カンナは石に蹴躓けつまずいて転びかけた。唖然として五人が見送る中、二人は森へ向かって進んだ。灌木がまばらに生えた草地から、次第に背の高い木が多くなり、風に枝が揺れている。


 「あ、あの、フレイラさん……モグ、モ、モグってなんですか?」


 「あ? ウガマールにゃモグラはいねえのか? 地面を掘って穴の中に棲む、ネズミみてえな生き物さ。竜にもそんなやつがいてよ、地下潜行型特殊竜をモグラって呼んでる」


 「じゃ、じゃあ、その、バグルスの他に、地面を掘る竜がいるってことですか?」

 「そういうことだな。こりゃ、当たりかもな」

 「当たりって?」

 「森にゃ、まだバグルスがいるだろうぜ」

 カンナは顔をしかめた。まったくバグルスづいている。

 「あの、さっきの人たちに、せめて、そのモグ……ラーを、退治してもらったら……」

 「モクスルにか?」

 「ええ」


 確かにそうだとフレイラも思った。アーリーが主張している、モクスルとカルマが協力して竜を退治する良い機会だろう。が、


 「無理だぜ」

 「どうしてです?」


 「前も云ったけどよ、可能性が低くたってカルマ並に強い奴は確かにいるんだよ、話を聴く限り……な。だけど、そいつらは動かねえんだ。いくら報酬が高くたって、バグルス相手じゃ命がいくらあってもたりねえからな! んだよ、あいつらは!


 可能性ってのは、単純な強さじゃねえんだ!」

 「いえ、バグルスじゃなくて、その、モ、モグラーの相手をしてもらうんですよ」

 フレイラが、ため息まじりに掌を振った。


 「分かってるって。さっきの連中がどれくらい強いのかしらねえがよ……こっちが云う前に、もう逃げ腰だったろう? 強かろうが、弱かろうが、どっちにしろバグルスにゃ近づかねえよ。あいつらとオレたちが連携して竜退治なんて、夢のまた夢さ」


 それは、臆病ということなのだろうか。それとも、意識が足りないのか。カンナは分からなかった。そもそも分からないのは、臆病で意識も足りない自分の可能性が最高に高いということだが。


 「でも……わたしでも勝てたんだし……」


 フレイラが止まる。突然振り向いて、カンナの胸元をつかんで顔を引き寄せた。目が据わっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る