第26話 サランの森
しかしその後、都市国家間の戦争は無くなったが、代わりに竜が現れるようになり、人々の交流は遮断され、作物や家畜の生産は減り、人口はまったく増えていない。そのため、森も湖も丘陵地帯も、そのまま城壁内部に残っている。森の中には、先人の知恵である下水処理用のため池もある。
サランの森は都市内であり、狩猟が禁じられているが、そもそも塀の内側のため動物は少なく、鳥と猫の楽園だった。市街地を抜けて、すみやかにフレイラとカンナは草地を抜け、サランの森へ近づいた。雲が厚くなってきている。一雨くるだろう。
「あ、フレイラさん、あれ……」
カンナが、同じく草地を森へ向かうバスクの一行を発見した。五人いる。
「おおい、待て、おまえら、待てったら!」
フレイラが五人を止めた。バスク達はフレイラを見知っていたので、近づいてきた。カルマがいるのに、驚きを隠せない様子だ。カンナと同じ歳ほどで、色の差はあるが茶髪によく日焼けした、小柄な娘が三人いた。一人がその母親ほどの年齢で、残る一人は二十代の中程に見えた。一人は中肉で、一人は長身だった。おそらく、娘三人がセチュで、年かさの二人がバスクだろう。と、思ったが、長い茶髪を後ろでしばった小柄な少女が、
「私はモクスルのダリス、こっちが同じモクスルの……」
「ジョナスです」
「アンリータよ」
若い少女たちがそう名乗った。
「こっちの二人がセチュで、私たちの助手。助手といっても、ガリアは使えるから、役に立ってる。経験も豊富だし」
バスク達の会話に、セチュは入ることを許されない。娘や妹のような相手の補助である年長の二人が無言で、フレイラへ礼をした。しかしカルマであるフレイラにとっては、モクスルもセチュも大して変わらなかった。
「おまえら、森でモクスルが殺されたのは知ってるのか!?」
五人は嫌な予感が当たったという顔つきになった。
「い、いや、私たちは、ただモグラが出たから退治してくれと……」
「モグラだあ!?」
「ええ……モクスルの誰がやられたの?」
「名前まではしらねえよ。そうか、モグラか……その穴から、バグルスが侵入しやがったんだ」
「バグルス!?」
「カルマが出張るんだ、バグルス退治だよ」
五人がチラチラと自分を見ているのを、カンナは感じた。こんなやつ、カルマにいた? というかこの人、カルマなの? そんな視線だ。
「わ、悪いけど、バグルスがいるんじゃ、私たちは下がらせてもらう……たとえついて行ったって、足手まといになるだろうし……」
ダリスは、動揺を隠さなかった。
「ああ、そうしろそうしろ。そうしたほうがいい」
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