第25話 バグルス都市侵入
都市政府の使いが息せき切って塔を訪れ、黒猫を通してアーリーへ緊急伝達と依頼があった。
「バグルスがもう一匹いる」
アーリーの言葉にマレッティとフレイラの顔が緊張に固まった。カンナだけ、事の大きさがつかめない。
「しかも、昨夜セチュが二人と、モクスルが一人殺された。サランの森の近くだ」
「都市内にいるんすか!?」
「まさか……昨日のは、囮ってことお?」
二人が愕然としているので、カンナも少し重大さが飲み込めかけてきた。
「分からないが、とにかく退治しなくてはならない。早急に」
「行きましょう、アーリーさん。とっとと見つけ出してぶっ殺さねえと、カルマの名折れっすよ」
アーリーは下女の一人に声をかけた。
「モールニヤはまだ戻らないのか? いつ戻るか、黒猫から聞いてないか?」
下女が首を横に振った。
「アーリーさん、人手が足りねえのは確かに痛いっすけど、仕方ないっすよ。オレらだけでやっちまいましょう」
アーリーが頷き、すかさず指示を出す。フレイラは、アーリー、自分、マレッティとカンナという三手に分かれると思ったが、
「私は塀の外周部を回る。マレッティは市場通りから市街地を探索しろ。フレイラはカンナを連れて、森へ行け。ぬかるな」
「はア!? オレがこいつの面倒を見るんすか!?」
アーリーは、二度は指示を出さなかった。無言で階段を下りる。肩をすくめて、マレッティも続いた。
「アーリーさん……アーリー! くそっ! なんでオレがおまえなんかのお守りなんだ!」
カンナはすくみ上がった。
「す、すみません……あ、あの、わ、わたし、るるる留守番してますから……」
「この、クソッタレの大ばか!! カルマが塔でお留守番なんざ、いい笑いものだっつうの! おまえだけが笑われるんじゃねえ、オレたちまで笑われるんだぞ! なんでそれがわからねえ!? ……いいから来い! 根性入れ直してやるッ!」
「は、はひ、はいぃ……」
カンナはついて行くだけだった。
「いいか、てめえが死ぬのは勝手だが、オレの足だけはひっぱるなよ!」
(死にたいわけないじゃない!!)
心では思っても、口からは出ない。
サラティスの外壁は、以前は都市部をひっそりと囲むだけだったが、百年ほど前の大改修で取り壊され、さらに頑丈で高い塀が二十年をかけて都市周辺の森や湖を囲む形で造られた。大規模な都市国家間戦争に備えてと、交易の活発化で人口が急激に増えたので都市の範囲を広げるためだった。市庁舎に残る文献資料によると、新しいサラティスは人口五万から八万人ていどを想定して設計された。
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