第21話 決着

 まだそこへ一気に止めを刺せないのが、カンナの実力だった。互いに距離をとって、荒い息でにらみ合う。


 強い初夏の日差しの元、しばらくそのままでいた。逃げようと思えばバグルスはこのまま逃げることができたが、逃げなかった。意地でもカンナを殺す気だ。カンナも、恐怖よりも殺意が大きかった。歯が鳴って、眼が異様に見開いてくる。


 「殺す……倒す……竜は倒す……竜はぜんっぶ殺す……」

 「……コッチノ、セリフ、ダ!!」


 硬質な鱗がざわざわと盛り上がり、バグルスの両手が膨れ上がって、それぞれ指が大きな手刀へ変形し、竜の手と化す。それを振りかざし、カンナへ踊りかかった。執拗に繰り出される手刀の攻撃。カンナはそれを全て黒剣で受けた。受けるたびに火花が散り、バグルスの手を焼いて行く。


 「ええいッ!」

 そればかりか後の先で反撃し、剣先が焦げた指を一本、落とした。

 「ギュウッ……」


 喉から音をしぼり出してたまらずバグルスが下がり、カンナの追撃。バグルスは、大振りの剣打をかわしつつ、体勢が崩れたカンナの顔面めがけて爪で攻撃したが、カンナが黒剣をその動きに合わせて突き出し、バグルスは右手を剣に貫かれた。さらに、高圧電流がほとばしって流れこむ。右腕の肉が裂けて焼け焦げ、血が蒸発して煙が吹き出た。バグルスが悲鳴を上げて下がったため、黒剣が抜けた。よろめきながら右腕を押さえ、苦悶に顔をゆがめる。


 カンナは荒く息をついたまま、剣を下段に構えた。カンナの集中がその限界を超え始めた。血液の底から電流が沸き起こる。黒剣が共鳴してヴ、ヴ、ヴヴ……と音を出して震え始めた。その音にバグルスが耳を押さえる。不快なのだ。


 そして帯電がジリジリと空気を振動させる。バグルスはさらに下がって距離をあけ、反射的に一気に飛びかかったカンナめがけ、いきなりその白い後ろ髪の中から蜂のような小さな竜を数匹出した。蜂といっても人の指ほどもある。野太い羽音を出して、小竜がカンナへ迫った。尾に毒針を有している。カンナは本能で恐怖を覚え、頭を抱えつつ黒剣を振り回し、小竜を払った。稲妻が網状にほとばしって、次々に小竜は焼け焦げて地面へ落ちた。


 その隙を逃さず、バグルスが突進した。

 一撃でその細首を掻っ切り、絶命させる間合いだった。

 「ふんぬゃああああ!!」

 カンナが、無我夢中で黒剣を横殴りに振りかざす。

 まったく間合いがあっていなかった。豪快に素振りをする。


 しかし、空気がゆがみ、稲妻より先に何かが飛んだ。バグルスは脳天へ振動が直接走った感覚に硬直した。ドーン、と脳が揺さぶられた。空気が引き裂かれ、雷鳴にも似た鈍い地鳴りのような音がして、バグルスが固まる。そこへカンナが、踏み込んで間合いを詰め、返す剣で横払いの第二撃! ガリアの力で硬質な鱗へ易々と剣が食い込み、骨を絶って、バグルスの胴体は腰から胴払いに真っ二つとなった。

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