第19話 バグルス迎撃

 一回もまともな仕事をしていないのに、もう心が折れかける。

 「……竜どもが移動している。コーヴたちは、迎撃されたようだ」


 突如、遠くをみつめていたアーリーがそう云ったので、マレッティとフレイラもすぐに立ち上がって小さい望遠鏡を出して片目につけた。カンナだけ座り込んで呆然とそれを見守る。確かに、風に乗って竜の吠える声やバスクたちの戦いの雄叫びが聴こえる。


 それより、アーリーはあの距離でそれが見えるのだろうか。


 「云わんこっちゃねえ。オレたちと別行動をとるから、狙われたんだ。バグルスもあそこにいるとしたら、ヘタすりゃあいつら全滅っすよ」


 ちょっと待った。バグルスというのは、

 「そのために、多数を用意したのだがな……行くぞ」


 云うや、アーリーが走り出す。それが速い。たちまち小さくなる。急いでマレッティとフレイラもそれに続いて走り出した。もちろんカンナも続いたが、とても追いつけるものではない。


 「ちょっと待って……くださ……!!」

 云ったが、声も届かないほどに距離が離れている。

 「もうだめ……!」

 走りながら涙が出てくる。

 「カンナちゃあん、ほらあ、がんばってえ!」

 マレッティが足踏みしながら遠くで待っている。

 「さ、先に……先に行ってて……!」

 カンナは手でそういう仕種をした。


 「わかったわあ! 気をつけて来るのよお! 北西に三ルットくらい向こうだからあ!」

 マレッティとフレイラも、荒野をとんでもない速度で駆けて行ってしまう。

 「なんなの……カルマって……」

 しばらく走ったが、ついにカンナは立ち止まった。

 「……なんで……わたしがこんなめに……」


 水分がほしい。が、荒野に何も無い。急いで息を整え、とにかくあとを追う。距離は三ルット(六キロほど)と云っていた。半分も来ていないだろう。竜と戦う前に移動で体力を失ってしまう。ただの旅と戦いの移動が根本から異なるのを肌で知った。


 「うわあ! もう……限界ッ……!」


 我慢してしばらく進んだが、カンナは膝から崩れて地面へ手をついた。息が喉にへばりつく。眼が回る。日差しも強いし、これは軽い熱射病の症状だった。


 「ツカレタカシュ?」

 「……疲れたわよ! つか……えっ?」

 人影に驚いて顔を上げる。メガネを直すと、汗が一気に引いた。

 バグルスが立っている。

 「話せるの!?」


 と思う間もなく、その竜の爪を持った右手がカンナの顔面を引き裂いていた。が、自動的に黒剣が発動して手に納まり、電撃を発しつつカンナを護った。


 カンナがその衝撃と、反射的に避けたために地面へ横に倒れた。

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