第18話 荒野へ

 「そう……ですよね」


 フレイラの云うことはまったくその通りだと思った。こんな自分がカルマというだけで五十カスタももらっては、彼女たちが面白くないのは当たり前だ。


 「だから、オレたちはよ、何がなんでも生き残って、竜を倒して倒して、倒しまくって、あいつらを実力で黙らせないといけないんだよ。わかってんだろ? おまえ」


 「は……はい……」

 フレイラの冷たい視線に、カンナはまた胃が痛くなる。

 「我々も行くぞ」

 アーリーが歩きだし、三人が続いた。


 サラティスは城壁に囲まれた要塞都市とはいえ、かなりの面積があった。高く厚い塀の内側には緑地もあるし、小さいが湖もあった。かつて人間の大軍から街を護っていたこの古く由緒正しい城壁は、いまや竜属との戦いの最前線で、人間の希望を護っていた。


 塔からサラティス正門まで歩き、四人は徒歩で街の外へ出た。カンナは昨日、街道からこの大門をくぐったのを思い出した。もう、何週間も前に感じる。


 「こっちだ」


 さっさと街道を外れ、アーリーは畑を遠目に荒野を歩き始めた。カンナもウガマールの奥地からひたすら歩いてここまで来ただけあって歩くのは苦ではなかったが、なにせアーリーは脚が長く歩くのが速い。フレイラとマレッティもそんなアーリーに合わせて歩くのが慣れている。カンナは歩速のペースが崩れ、数刻も歩かない内に息を切らしはじめた。


 「おいおい、カンナちゃんよ、頼むぜ。そんなんじゃ、オレたちと竜退治なんて、とてもじゃないけどできないぜ?」


 「先に行ってなさいよお。初めてなんだからあ。人間、最初からなんでもできたら苦労はしないのよお」


 マレッティがそう云ってカンナに合わせてくれる。だがアーリーは隊列が崩れるのを許さなかった。


 「では、少し休む」


 アーリーは仁王立ちのまま、腕を組んで荒野の向こうをじっとみつめだした。フレイラは地面へ胡座で座って、いつのまに用意していたものか、水筒から水を一口飲んだ。マレッティも腰のポーチから小さい水筒を出して口に含んでいる。カンナはそれを見て驚いた。誰も何も用意していないと思って、何も持ってきていない。そんなはずはなかったのに。


 (わたし、本当にやる気があるんだろうか……)

 自己嫌悪でため息も出なかった。

 「少し、飲む?」


 マレッティが水筒を差し出したので、カンナはありがたく少し水を分けてもらった。……が、吹き出しそうになる。それは水ではなく、ワイン醸造の廃棄物であるブドウの搾りかすより作った、度の強い蒸留酒であるグラッパだった。


 「あっははあ、飲まないとやってらんないわよお。あたしだって、あんなコーヴのバッッカ役立たずどもといっしょになんて、御免なんだからあ」


 マレッティが急に据わった眼でそう云い、含み笑いをもらした。

 (ついてけない……ついてけない……)

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