第16話 バグルス退治

 「何を食べるの?」

 「カンナちゃんは何を食べたいの?」

 「わたしは、朝は果物とか、パンに干し肉とか……」


 「ウガマールは果物が安いんでしょうけど、こっちじゃ逆に高いのよお。もちろん、お金はあるけど……高いうえにまずいわよお」


 「いや、マレッティと同じでいい」


 「あたしも朝はあんまり食べないのよお。アーリーやフレイラは朝からばっかみたいに食べるけどねえ」


 フレイラはどうかしらないが、確かにアーリーはあの無表情で延々と食べ続けるような気がした。


 マレッティは屋台街を抜け、昨夜も通った市場通りに向かう。昨夜の竜騒動も無かったように、人々が物を売り、買っていた。そこで、マレッティはパンとチーズ、豚の脂身の燻製、干しイチジク、持ち帰り用の素焼きのカップに入れられたコーヒーを買った。干し果物は安い。それを持って近くの小さな公園へゆき、二人でベンチに腰掛けてそれを食べた。城壁に囲まれた城砦都市の割にサラティスは広くて、緑も多かった。


 「竜なんて、ほんと、どこからやって来るのかしらねえ。大昔は、遠くからやって来る伝説の怪物だったんだろうけどお、いまや狼や山猫よりたくさんいるわあ~。むしろ、そっちが伝説の生き物みたいになっちゃって」


 そんなマレッティの顔はにこやかだった。昨日、風呂で云っていたように、彼女は竜退治がずっと終わらなければよいと思っている。


 カンナは天を仰いだ。故郷と同じ色をしている。世界は間違いなくつながっている。

 雲が流れていた。


 塔へ戻ると、最上階の広間には既にアーリーとフレイラがそろっていた。カーテンが開けられ、朝日が部屋の隅まで清めている。


 アーリーがその指定席より立ち上がり、三人へ指示をだした。


 「都市政府からカルマへ依頼が来た。先日、サラティスへ侵入したバグルスを撃退する。バグルス相手だ、四人で引き受ける。報酬は一人五十カスタ。直接バグルスを殺した者にはもう五十出る。また、セチュ達の偵察によると、都市の周囲には既に軽騎竜が三匹と主戦竜が一匹潜んでいる。これはコーヴとモスクルに撃退依頼が出たので、張り切って連中が相手をしてくれるだろう」


 「軽騎竜はあ、一匹退治して相場が二十五カスタ。一匹でよお。主戦竜は四十五カスタなのよお。バグルスは、つまりい、二百五十カスタ……バグルスがどれだけ手強い、そして重要な相手か分かるでしょお?」


 マレッティが小声で解説してくれる。


 カンナの記憶がたしかならば、カスタとはサラティスの金貨のことだった。あの人工的に作られたというダールもどきを倒すのに、都市政府は金貨を二百五十枚も出すのか。カンナは驚愕した。


 「既にやつらの居場所は割れている。郊外だ。先日のバグルスも都市内に潜んでいるかと思いきや、主戦竜を指揮するためにそこにいるそうだ。そう遠くはない。日帰りになるだろう。出発する」

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