第15話 早朝の街
部屋は広かった。ベッドを並べると十人は眠れる広さがあり、今はベッドとテーブルと椅子と中型の箪笥しかないため、格別に広く感じた。水の流れる音がするので見ると流し兼洗面台があって蛇口から清水が滴っている。きっと井戸水をウガマールにもある空中庭園の原理で塔の頂上まで汲み上げ、そこから各部屋まで落としているのだろうことは理解できた。なんとこの個室には水洗トイレまであるのだった。
顔を洗って、口を漱いで水を飲み、空腹を感じたのでとりあえず部屋から出た。そういえば、この宿舎では食事は全て外食なのだろうか。
「お金……もってない……」
昨日の支払いは竜騒動のどさくさでどうにかなったのだろうが、朝食はどうにもならないだろう。先日の鑑定料で、カンナはほとんど無一文となっていた。
「カンナちゃあん、おっはよお!」
甲高い声に振り返ると、昨日とは違う、やけに派手なフリルのついた黄色い服を着ているマレッティがいた。
「見て、これえ。いいでしょお? 特注よお」
「な……なにか、集まりでもあるんですか?」
「なあに云ってるのお。戦闘装束よお」
これが?
カンナは正直に眉をひそめた。
マレッティの片頬が微妙にピクリと動いたが、カンナには気づかせない。
「あさごはん食べるでしょお? 案内してあげるからあ。朝は朝で、ゆうべとは別の屋台街があるのよお」
「でも、マレッティ、わたし、お金が……」
「あさごはんくらい、あたしが出すわよお。どうせ、今日の夜には、カンナちゃんにもたっぷり報酬がはいるんだからあ~。たった一回の依頼で、モクスルやコーヴの連中の、に~さんか月分の収入よお」
それは、凄いのだろうか。いや、昨日の竜を倒すようなバスクの収入が安いはずが無い。しかし、あのバグルスという化物を考えると、その高給も分かるような気がしてきた。
「わたし……そんな……もらう……資格なんて……」
「きっこえなあーい。まずねえ、カンナちゃんはズババーン剣を使う訓練より、気合と自信が第一なんだわあ。ガリアって、技術じゃなくて、やる気だからあ。あなた自身がそんなんじゃあ、剣もいつまでもその力を発揮できないわよお」
「ズババーン剣」というのは、もう決定した銘なのだろうか。はやく自分でそれなりの銘を考えないと、本当に「ズババーン剣」にされそうだ。
先日の屋台街では、あれから倒されたのであろう竜の死体はもう片づけられていた。破壊された一部の建物も未明から修復がはじまっている。やたらと朝から肉を焼く煙が多いのは、気のせいだろうか。嗅いだことの無い匂いの肉だ。何の肉だろう……。
「ここはいろんな都市の出身者がおおいからあ、いろんな都市の料理があるのよお。でも、腸詰めは少ないの。ストゥーリアにはたくさんの腸詰めがあって、朝からみんなビールでそれを食べるのよお。誰か、腸詰め職人を連れてくればいいのになあ」
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