第13話 帰還
「カンナ!!」
驚いてマレッティ、転身してその背へ向け光の円輪を飛ばしたが外した。
カンナが無意識に悲鳴をあげる余裕も無く手をかざすと、そこに黒剣が出現する。バグルスが剣身を両手で握りしめ、鋭い息と共にとんでもない力で押しつけてきたので、カンナは恐怖と力負けのあまりそのまま尻餅をついた。
が、その瞬間、空気を電流が裂いて、バグルスも驚いて後退った。
「……!」
バグルスは呆然とその自らの両手を見つめた。感電し焼け焦げて煙が上がっており、また、鋭く掌の鱗が切れて血が滴っている。
「とぉおおああ!」
気合でその後ろ姿へ光輪ごと突きかかったマレッティであったが、バグルスはその姿勢から大きく宙に舞い上がり、建物の壁を蹴って屋根の向こうへ消えてしまった。その太く長い尾で地面を打ち、一瞬で飛び上がったのだ。
「逃げやがったわああ!」
剣の明りをかざし、マレッティが叫んだ。そして、その光をカンナへ向けた。カンナは尻餅のままメガネもずれ落ち、黒剣も投げ出して、ガタガタと震えている。
マレッティはカンナに気づかれぬよう、顔をしかめたものの、すぐに笑顔へ戻り、左手でカンナを立たせた。
「ほら、しっかりしてちょおだい! はじめてでいきなりバグルスですものお、無理はないわあ。きこえる? あたしの声」
「は……は……い……は……」
カンナはただでさえ白っちい顔色が、まさに顔面蒼白だった。唾も出ずに口内へ恐怖がへばりついて言葉も無い。マレッティがその背中を何度も叩く。
「息つまっちゃうわよお! だあいじょおぶおよ。ズババーン剣がちゃんとあなたを護ったじゃなあい。あなたは、ちゃんと、ガリアを遣えるわあ」
剣。そうだ、黒い剣。自分の剣。生きる証。自分の全て。カンナが地面を見ると、ガリアはもう消えていた。
「はあぁ……」
やっと息が出た。とたんに目眩がして、また倒れかかる。マレッティがその身体を支えた。
「帰って休みましょお? はやく慣れることね」
深夜を待たずに塔へ戻った二人を、アーリーが最上階の控室へ呼んだ。放心して虚空をみつめているカンナを椅子へ座らせ、アーリーがマレッティより事情を聞いた。
「都市政府はバグルスの侵入を許したのか」
「評議会や衛兵たちを責めてもしかたないわあ。時間の問題よお」
燭台の火に影を作り、マレッティは肩をすくめる。フレイラが腰に手を当て、魂が抜けているカンナを見つめた。
「それにしても、よく助かったもんだな」
「あたしがちゃーんと、護りましたからあ」
カンナは三人の会話を、聴くともなしに聞いていた。
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