第12話 バグルス
路地を抜け、屋台街から反対側の市場通りに出ると、そのままマレッティが違う路地に入るのを見たので、カンナはさらに恐ろしくなって急いで続いた。
そこはそのまま袋小路になっており、やけに明るい月光の下、フード姿の小柄な人物が立っていた。マレッティはその前にゴブレットをもったまま、対峙している。
「……マレッティ……?」
追いついたカンナは息をつきながら、その小柄な人物を恐ろしげに見つめた。人間の雰囲気がしない。
「カンナちゃあん。カルマはねえ、あんな雑魚竜なんかと戦わないの。覚えておいて」
「……じゃ……何と……どんな竜と戦うんですか……?」
「あいつよお」
マレッティが空のゴブレットを投げつけた。小柄な人物がそれを避け、背後に音を立てて転がる。まぶしさにカンナが目を細めた。マレッティの右手から光がほとばしった。ガリアを発動させたのだ。小手のついた身の細い刺突剣である
「うわっ」
髪は真っ白で、その顔の半分近くは緑の鱗に覆われ、目はマレッティのガリアを反射し、青白く光っていた。口元も、人間の口に思えたものが、がっぱりと耳近くまで開いた。剃刀のような尖った歯が並んでいるのが見えた。腰の辺の背後からは、太く鋭くしなる尾ものぞいている。僅かに見える肌が、髪と同じく真っ白だった。ぞろりと、フード付ローブの下より硬そうな鱗に膨れ上がった両手が出る。その指先には、鉄をも引き裂きかねない、黒々とした竜の爪があった。
「な、なっ、なんですか、あれ……」
「
「バグ……」
「いいことお。この十年ほど、竜属どもはただ闇雲に攻めてくるのではなくて、明らかに何者かが竜を統率・組織化して、ああやって人工的に
「……え!?」
カンナはマレッティが何を云っているのか、にわかに理解できなかった。
「カンナちゃんの初陣といきたいところだけどお、あいつはさすがに荷が重いわあ。あたしの戦いをみててちょうだいね……」
云うが、剣というより杖を振り回すようにマレッティが右手を振りかざすと、その銘のとおりに白や黄色に輝く大小の光の輪が連続して剣からほとばしり、袋小路のバグルスを襲った。
バグルスが、自分のローブをその光の輪めがけて投げつけた。ローブがズタズタに斬り裂かれて闇に消えた。まさに人間離れした速度で駆け込んで、バグルスがマレッティを襲う。閃光を放ち相手の眼を眩ませ、マレッティは迎撃しようとしたが、その刃をかわして、なんとバグルスがその後ろのカンナへ向けて突進し牙をむいた。
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