第10話 屋台街

 「お金……」

 意外な答えが返ってきて、カンナは言葉が続かなかった。


 「お金の余裕は心の余裕だわ。既に世界の半分が竜に支配されているだかなんだか知らないけど……あたしは、ずっとこのまま竜が出続ければいいと思ってるの。だって、そうしたらずっと竜を倒してお金がもらえるじゃない? せっかくガリア遣いとして生まれたんだから……可能性なんて知らないわ。可能性なんてウソよ。あたしはそう思ってるの」


 「そう……ですか。よく……わかりません……」


 「まあ~、ね、カンナちゃんも竜を退治して、眼が丸くなるくらいのお金をもらったら、わかるわよお! そのかわり、あたしたちカルマの退治する竜は、とーんでもないやつばっかりだけど! それより、カンナちゃんの黒い剣、なんて名前にするう?」


 「な、名前ですか? 名前なんて……黒い剣でいいですよ」


 「だめよお。ちゃんとを誇示する名前にしないとお。そういう、ハッタリも大切なのよお。コーヴやモクスルの連中に示しがつないんだからあ。あたしが考えてあげる。そおねえ……稲妻ズババーン、カミナリバシーンだから、ズババーン剣っていうのはどお!?」


 「……」

 カンナは眼をつむり、のぼせて聴こえないふりをした。


 「あらっ、ちょっと大丈夫う? もう上がった方がいいんじゃないかな? お湯に入るのは慣れてないんだからあ……はやく、あんたたち、カンナを頼むわ!」


 控えていた下女が飛んできて、カンナを支え、湯殿から上がらせた。


 高級な生地の着替えが用意されており、そのまま塔の中階にある部屋へ通された。ここに、マレッティやアーリー、フレイラたちが住んでいる。おそらく、モールニヤも。


 カンナの部屋は誰の部屋とも接していない、離れのような場所だった。新人の部屋なのだろうか。最低限の家具類があるだけだったが、カンナには充分だった。寝るところさえあれば。


 水を大量に飲んで横になっていると、ねむっていたようだ。思えば、一か月ぶりにベッドへ横になる。どのくらいねむったのか、マレッティが迎えに来た。


 「具合よくなったあ? ごはんいきましょうよお」

 「は、はい」


 繁華街へ繰り出すとすっかり暗くなっていた。松明やランタンの灯が幻想的に街角を彩っている。街の住人はさすがに夜はあまり出歩かないが、バスク達は別だった。どこからかサラティス地方の民族楽団の演奏する音楽が聴こえ、さまざまな都市国家の諸民族、そして中にはカンナより若い子供から母親のような壮年の年齢の女性たちまでが、騒がしく出歩いている。全員がバスクだ。


 「うわあ、本当にバスクって女の人ばかりなんですね」

 カンナは圧倒された。

 「そおねえ、ふしぎよねえ。でも、男のバスクもたまーにいるのよお。千人に一人くらい」

 「そうなんですか? どうして、ガリアはほとんど女の人しか使えないんでしょう」

 「しらなあい」

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