第9話 バスクの理由
洗い場で椅子に腰掛け、ざばざばとかけ湯をされるや、カンナは驚いて飛び上がった。
「あっつうい!」
「あ、ごめん……慣れてないものね……ちょっと、湯加減を考えなさいよ!」
下女たちがあわてて、かなりぬるめに調整した湯を用意する。
それをかけられて、やっとカンナは落ち着いた。
それからバラの香料入りの高級石鹸と海綿で、カンナはマレッティと下女に、もみくちゃに洗われた。汚れが落ちると、意外に白い肌が現れた。ただし、マレッティのような薄い肌地ではなく、濃い乳白色に近い、白漆喰か大理石めいた、見たことも無い独特の深い白だった。それが
「カンナちゃん、ほんとにウガマールの生まれ?」
「ええと、いやっ、あの……都市から外れた、すっごい奥地のムラなんです。きっと知りません」
「へええ……むだ毛もぜんぜんないのね。うらやまし」
マレッティは桶をとり、わざと乱暴に湯をカンナの頭からかけた。
「先にはいっててえ。あたしもあらっちゃうからあ」
マレッティが下女に身体を洗わせている間、カンナはおそるおそる爪先から大きな湯船に入った。水浴びは好きだったが、湯に浸かるのは生まれて初めてだった。そんなに熱くはなく、腰から肩まで湯に浸されると、
「ふぇああぁあ」
変な声が出て自分でもびっくりした。
髪を上にまとめたマレッティも湯へ入ってくる。大きく伸びをして、ため息をついた。
「あーああ、気持ちいい。あたしはストゥーリアの生まれなの。向こうもお風呂に入る習慣は無いのだけど、こっちですっかり、虜よお」
「そうですね。これは気持ちいいです」
「ねえ、カンナちゃん」
「はい」
「カンナちゃんはどうしてバスクに?」
「え……」
どうして、とは思わぬ質問だった。
「だって……ガリアが……ガリアの力があったから……」
「ガリアをつかうからってえ、必ずサラティスでバスクにならなくちゃならない理由はないじゃなあい。それに、ウガマールだって竜退治はできるんでしょ?」
「それはできますけど……そういう、マレッティさんは?」
「マレッティでいいわよお! マーレちゃん、でもいいけどお」
「え……じゃ、あの、マ、マレッティは?」
「あたしい? 知りたい~? あたしはねえ……」
そこでマレッティは突然黙りこみ、陰鬱な顔をみせた。カンナがその横顔に眉を寄せ、目を細めた。
「あたしは、お金のためにサラティスに来たの。そしてバスクになった」
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