第8話 風呂にて

 「そうでもない。これまでもあった。人の資質の種類など、そう数あるものではない。似たような力のガリアを遣うものは、たとえ数の少ないカルマでもかつていた」


 「へーえ」

 「あんたの嫌らしい針チクチクが、変わってるの!」

 「大きな世話だぜ」


 「カンナ、最初は死なないことだけに気をはらえ。無理にその黒剣を遣おうなどと考えるな。自然に、自分の秘められたガリアが目覚め……黒剣は真の力を発揮する。それが、我らガリア遣いとしてのバスクの基本だ」


 「そうでしょうか」

 「そうだ」


 己のガリアを消し、アーリーはまた自分の椅子へ戻った。音を立てて座り、脚を組んで片腕で頬杖をついたまま、瞑想に戻る。


 「へっ、そうはいうけど、カルマにいるかぎり、出し惜しみしてたら、たちまちおっ死ぬぜ。せいぜい本気出しなよ」


 フレイラが苦笑をまじえてカンナを見た。その眼は冷たく光っている。カンナは胃が痛くなった。


 「じゃ、部屋に帰るわ」

 フレイラは螺旋階段から階下に消えた。

 マレッティは、カンナの手をとったままそれをぶらぶらと揺らし、


 「ねえ、カンナちゃあん。歓迎会してあげる。ごはんたべにいこ? ……と、そのまえにい、お風呂でも入らなあい? かなり、くさいわよ?」


 カンナは羞恥で大汗をかき、倒れそうになった。



 2

 

 塔からつながる増築された二階建ての建物には、カルマの事務所や倉庫、使用人たちの居室があった。その中に、サラティス名物の風呂もあった。サラティスの豊富な地下水を沸かしたもので、街中には公衆浴場も多い。バスクたちは風呂好きと相場がきまっており、サラティスいえばバスク、バスクといえば風呂だった。


 カルマの風呂は彼女たちカルマ専用のもので、広く深い。湯もたっぷりと常に新しい白湯が用意されており、好みで香料も入れることができた。塔で雇われている下女たちにウガマールの麻の服を脱がされ、それは洗濯と補修に回された。もっとも返って来なかったので、じっさいは捨てられて新しい服が用意された。


 ウガマールを出てほぼ一か月。カンナは初めて服をぬいだ。自分の薄汚れた色黒い肌とは対照的な、やたらと白く豊満なマレッティの裸体にカンナはどぎまぎし、すぐにメガネを外して、見ないようにした。


 浴場の扉が開けられると、蒸気が脱衣場になだれ込んできた。カンナはその熱気に驚いた。


 「うわっ……お湯ですか!?」


 「お湯よお! あっ、ウガマールは水浴びしかしないんだっけえ? あついものねえ。ここはお湯よお。気持ちいいわよお。……なにやってるの?」


 「見えないんです……」

 カンナは眼を細くして、手さぐりのへっぴり腰で歩いている。

 「さ、洗ってあげるわあ」

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