第6話 ガリア

 二人の存在感に圧倒され、そう云ったつもりだったが声が出ていたかどうか。

 「モールニヤはどうした? また一人で退治に出ているのか?」


 カルマの構成員は、いまさっき、アーリーがたしかカンナで五人めと云っていた。もう一人、いるようだった。


 「ここんとこ、見てないっす。というか、ずっと見てないっす」

 「あたしもお。モルニャンちゃんは郊外や他の都市国家に出張が多いからあ」

 そして、マレッティがカンナへ向かって片目をつむる。

 「あたし、モルニャンって呼んでるの。かわいいでしょ?」

 「へ……」

 なんと答えて良いのか分からない。


 「仕方がない。その内、紹介できるだろう。この四人と、モールニヤを含めた五人がサラティス・カルマの構成員だ。実は、一か月と少しほど前まで、オーレアという仲間がいたのだが、竜との戦いで死んだ。可能性は87だった。知ってのとおり、可能性は強さではない。いくら可能性が高くとも弱ければ死ぬし、可能性が少なくとも、強く、稼いでいるものもいる」


 カンナはその言葉に心臓がつぶれそうになった。


 「だが、我等カルマは可能性80以上である自覚を常に持ち、いつか世界を竜の侵食から解放しなくてはならないことを肝に命じておけ」


 「は……」

 また声が出ない。カンナは、我ながら情けなかった。


 「いいことお、カンナちゃあん。この街の竜退治請負人の組織はねえ、可能性で全てきまるの。それが『掟』よお。可能性40未満がセチュ。バスクじゃないわあ。六百人……六百五十くらい、いるのかしらあ? だいたいはみんな他に仕事しててえ、たまに竜退治のお手伝いで副業してるのよお。衛兵や斥候を専門にしてる人もいるわあ。バスクと呼ばれるのはあ、可能性40以上よお。40から59までがモクスル。これが、いま何人だろ……三百人くらいかな? で、60から79までがコーヴ。コーヴはいま、四十七人よお。いっつも五十人前後なの。そして80以上だけ所属できるのが、栄光のカルマなのよお! サラティス一千人のガリア遣いの中で、カルマはこの五人しかいないんだからあ! だいたい、新人も多いけど、、いつまでたっても数がふえないのよお!」


 「ふぇ……」


 「じゃあ! じゃあね、ガリアを見せてもらおうかなあ! カンナちゃんの! だって、みんなで竜を倒す仕事もあるんだからあ! どんなガリアか知らないとねえ……」


 楽しそうにマレッティが高音を大広間に響かせる。カンナは脳天がびりびりした。戸惑っていると、マレッティが自分を見つめているのに気がついた。その期待の瞳に逆らえず、あわてて右手を振ろうとしたが、アーリーがそれを止めた。


 「待て。先に我々から手の内をあかすのが礼儀だろう」


 云うが、アーリーの右手が大きく振りかざされたかと思うや、彼女の身長よりも巨大な長鉈のようなものが出現した。全体の三分の二が片刃の巨大な剣で、三分の一が両手持ちの柄になっている。ギラギラと赤銅色しゃくどういろに輝き、炎環えんかん模様に彩られ、熱気で陽炎を発していた。


 「炎色片刃斬竜剣えんしょくかたばざんりゅうけんだ」

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